御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十五 

            夢 

            むこく 




  石動山から七尾を跨いだ北西の地に

  能州に於いては石動山の三百六十坊に次ぐ霊山御前山別名

  赤蔵山が存る

  社領五里四方と広大な社域を有して居た御前山であったが

  五年前戦禍に巻き込まれ灰塵に帰した

  其の御前山の土に埋もれ僅かに顔を覗かせて居る石段を踏みしめ乍ら

  亀山社跡へと続く裏参道を登り続ける男が暗闇へ向けて


「 俺だ 善行だ 」

「 鳥居の辺りで暫し御待ち下され 」

「 取り込み中か 」

「 はっ 」

「 御前らに夜伽の番をさせるとは … 済まぬな 」

「 いえ 此れも大事な御役目でござる 」

「 気取られては居らぬであろうな 」

「 我らに夜伽の番をさせて居るのでござる 御懸念には及びませぬ 」

「 済まぬ事がもう一つある 」

「 既に承知で居り申す 」

「 であろうな … 皆に引き上げよと継ぎを付けてくれ 」

「 ほおうっ あの男 少しは気を遣う事を覚えましたか 」

「 御前達の為では無い 己れの為だ 」

「 はっはっはっ でしょうな 何れにせよ良うござる

  此れ以上手の者を失うては組の体を為しませぬので … 名無し 」

  枝がざわと揺れたかと思う間も無く 影が一つ土に埋もれた石段を駆

 け下りて行った

「 他には 」

「 左近組は巫女(ふじょ)組と共に眉丈山(びじょうざん)を引き払い石動山

 へ移る故 右近組は其れと入れ替われとの事だ 」

「 ほおうっ 其のまま墓穴に閉じ込める積もりですかな 」

「 其れで済むなら 越した事は無いがな 」

「 我らは 」

「 命ある迄潜んで居れと … 言う迄も無いが 」

「 其の間 御嬢を守り通す可し 」

「 うむ 遊佐様から此の御山を教えて頂いた代わりにあの女御を御守り

 致すと約束したのだ 約を違えては成らぬでな 」

「 成れど善行殿 我らが去りし後はあの女御 如何に相成るので 」 

「 然(さ)ては黒丸 あの女御に情が移ったか 」

「 はっはっ やも知れませぬな …

  遊佐様からは 気の触れた女御としか伝えられて居りませぬが 何が在

 ったのかは首の刺し傷の痕から凡そ察しは付きますものの 普段は童女

 の様に無邪気な笑顔を絶やさぬ女御なれど 時折りまるで観音菩薩様の如

 く清白で真に慈悲深い面を見せてくれるのでござる

  御陰で 御嬢の傍に居るだけで我らの穢れた心も浄化されて行く様で 

  別れと成りますれば ちと寂しいものでござる 」

「 其う成らぬ為にも黒丸 其方ら傍人組があの御方を 遊佐様を死なせて

 は成らぬ 」

「 では遊佐様は 真に四箇院を 」

「 と迄は行かぬ迄も せめて身寄りの無い者や老いた者らを収する悲田院

 の様なものを創りたい とは申されて居るのだ 」

「 御嬢の様な 」

「 うむ と言うより あの女御の為 やも知れぬな 」

「 御嬢の為ならば 」

  御任せ下されと 黒丸の大きな顎が小さく頷く

「 黒丸 奴は 御影は出来る あの男に 左近めに傷を負わせた程の男だ

  若いからと言うて侮るで無い 」

「 既に承知でござる が 奴は 」

「 左近めは 俺が殺る 」

「 御一人で … 」

「 其れは 扨措いてくれ 其れより

  済まぬ次いでにもう一つ頼みを聞いてくれ 」

「 何なりと 」

「 七尾の杉江屋を存知て居るか 」

「 船宿を兼ねた船問屋 でございますな 」

「 うむ 其の杉江屋は旅籠も営んで居るのだが 其此に於夕(おゆう)と申

 す女御が御付きの者と部屋を取って居る故 右近組が此処を引き払ったな

 らば其の者らを此処に匿ってくれ 」

「 於夕殿 でございますな 」

「 うむ 頼んだぞ 」

  言いつつ 石段を登り終えた善行が 焼けて倒れた鳥居の残骸に腰を下

 ろした途端影が忍び寄り 御酒入りの瓢箪と干し肉を置いて消えた

⦅ 黒丸め 気を利かせ居って ⦆

  有り難しと 瓢箪の口に唇を当てごくりと喉を鳴らす

⦅ … 黒丸よ 遊佐様同様 汝(うぬ)らにも死なれては困るのだ …

   だが 巫女(ふじょ)組を人質として取られて居る以上下手は打てぬ

   かと言うて 今の俺では奴を殺れぬ … 

   考えろ善行 何か良い策が在る筈だ … ⦆

  御酒は程好く冷えて居て 山椒を利かせた干し肉との相性も良いのだが

⦅   にしてもあの男 女御は子を産む道具と抜かしやがった

   赦さねえ … 俺は絶対赦さねえ … ⦆

  干し肉をぎりりと噛み切り 御酒を一気に呷る

⦅   御前と妹の於ゆうが密かに通じて居たのを 此の俺が知らぬと思う

  てか 於ゆうが子を産めぬ女御であると知った御前は 無情にも於ゆう

  を捨てた 為に 為に於ゆうは ちっ 畜生めえいっ … 

   其して其の夜 母も消えた 気持ちは解らんでも無いが今でも何処ぞ

  で生きて居るのであろうか 

   生きて居るならば 一目なりとも会うてみたいが 其れは無理だな

   今の俺には 昔から其うだが あの男は殺れぬ 

   幾ら考えても 殺るには刺し違えるしか手は無さ其うだ … ⦆

  廃墟と化した亀山社から喘ぎ声が洩れて来る

  心で舌を鳴らし唾を吐くも 無視を決め込んだ善行は瓢箪の御酒を飲み

 干し 最後の干し肉を口に咥えたまま朽ちた柱にごろりと横に成る

⦅ … 四箇院を建てる際 鳥居は石であらねば成らぬと聞いた事が有る

 … やはり 銭が要るか …

 … 然し 美しいのう  …

   七月七日は於ゆうの命日故 其の夜は空など見上げる気さへ起きずに

  居たのだが 美しき物に罪は無い のう 於ゆう … … …


  … あの夜 …

  私(わたくし)は 何時もより早目に着いてあの御方を御待ち致して居り

 ました

  あの夜も 今宵の様に天の川が清らかに流れ まるで私達の向後を祝う

 てくれて居るが如く美しく煌めき満天の星の下 あの御方に抱かれると想

 うただけで私は正に天にも昇る心地で居たのでございます

  何時もより早く着きました訳は 久方ぶりに御会い出来る嬉しさと 蛍

 ならば風情もござりましょうが夏虫は煩わしいものでございます

  かと言うて あの廃寺迄蚊帳を持って行く訳にも参りませぬ故 虫除け

 の為でもございましたが場所が場所でございます 不浄を祓い心識(しんし

 き)を清らかにす可く事前に香を焚く積もりで早目に参って居たのでござい

 ます … とは申しましても 

  流れる汗も気にかかります故真に高価な物ではございましたが 母は既

 に亡くなって居りましたので用いる者は私しか居りませぬ故麝香を 耳の

 裏と脇の下に塗香(とこう)して出て参りました

  実を申しますれば 腿の内側にも少しだけ …

  ほんの少しだけでございます 塗って居りました …

  嗚呼 … 今思い出してみましても頬が赤らみまする …

  麝香の芳しい香りに自ら酔いしれ心は膨らみ胸の鼓動も高鳴る中 床が

 きしりと軋んだのでございます

  嗚呼 あの御方の左手が私の肩へ 其して胸元へ … … … …

  何故(なにゆえ)唇を求めて来ぬのでございます

  何故乳首へ触れては下さりませぬ

  私を焦らしておいでなのですね

  嗚呼 もう堪りませぬ源心様 … 

  源心様 … どっ 何処へ 何処へ行かれるのです源心様 …

  あの御方は一言も言葉を発せられぬまま 再びきしりと音を立てて去っ

 て行かれたのでございます

  私と 胸元に差し入れた御別れの文を残して …

  私は 幼い頃からあの御方の妻と成る事を望み只其れだけを願うて生き

 て参ったのでございます 其れなのに … 嗚呼 …

  其の時でございます 暗闇の中 嘆き悲しむ私の心を嘲笑うかの如く女

 御共の笑い声が近付いて来るではござりませぬか 途端 私の身体は無意

 識の内に其の声のする方へ向こうて居たのでございます

  声の主は私の父の妾と其の娘 高笑いして居る様も然る事乍ら 娘が待

 ち望んで居た稚児(ややこ)を漸く授かったと喜び合う二人の会話が 子を

 産めぬ身体の私の癇に障りましたは言う迄もござりますまい

  私は母娘の前に飛び出し様娘の腹を強く打ち 打った其の手で首を括っ

 て差し上げたのでございます

  娘の母は命惜しさに声を限りと何やら叫んで居りましたが 其の声が私

 の耳には何とも心地好くたっぷりと甚振(いたぶ)った後で 彼の世で閻魔

 様に余計な事を言わんでも良い様に 眼を潰して舌を抜き耳を削いでから

 逝かせて遣ったのでございます

  其の瞬間 足の爪先から頭の天辺迄 男の其れとは比べ物に成らぬ程の

 快感が一気に突き抜けて行くのを 今でも覚えて居りまする

  とは申せ あの妾を甚振って居ります内は真に愉しい一時(ひととき)で

 はございましたが 息が絶えてしもうてはもはや用済みでございます

  其此で 骸(むくろ)は切り刻んで豚の餌にしてやったのでございます

  ほほっ 豚は何でも食す生き物の上に人の骨すら跡形も無く噛み砕き呑

 み込んでくれます故 真に調法な生き物なのでございます

  調法次いでに申し上げますならば 其の革は使い道により固くも柔らか

 くも仕上げられ糞は肥料に 尿は火薬作りには欠かせぬ上に其の肉は力の

 源を為し 春の内に多く食して措きますれば今夏の様な酷暑にも堪えうる

 身体を内から造り上げる事が出来るのでございます

  其れより何より 豚の肝の臓を食さぬ事には夜目が利きませぬ 夜目の

 利かぬ伊賀の者など誰も雇うてなど下されは致しますまい

  長々と取り留めの無い話しをして参りましたが そろそろ行かねば成り

 ませぬ … おっ 其うじゃ善行 

  豚のお味は 其方の母を食した豚のお味は如何であった

  嘸や美味なるものであったろうのう …

  ほほほほっ ほほっ … ほおうっほっほっほっほっほっ … …


「 うっ ぐっ ぐうっ ぐうえっ ぶっ ぷっ はっはあっ はっ はっ

  はあぁ … … … 」

  飛び起き様 胃の腑の物を全て吐き出した善行の額から脂汗がじっとり

 と滲み出 激しい動悸に息も荒く手の甲で汗を拭いながら 目の前の荒屋

 を睨み付ける

⦅  くっ 何だ今のは … ⦆

「 如何為された善行殿 」

「 すっ 済まぬ 折角の持て成しを 」

「 いえ 悪い夢でも見てしまいましたか 

  随分と魘(うな)されて居りましたぞ 」

「 善行様 元々此処は霊の集う御山だ其うで 

  過去に手を掛けた者の霊でも現れましたか 」

「 名無し 戻って居たのか 」

「 はっ 」

「 手に掛けた者では無い 其うでは無いが … 

  名無し 倫組の頭領 今は何処に居るか判るか 」

「 はっ 張りの者によりますれば 弟組の若い者と赤浦へ向かったと 」

「 小頭は 二人の小頭は 」

「 はっ 赤浦の倫組の屋敷に居りまする 」

「 二人共 手の者を殺された恨みを忘れられるか 」

「 倫組と弟組に対し でござりまするか 」

「 其うだ 」

「 … 善行様が其う申されるのであれば … 御頭は 」

「 … 我らの大儀とあらば 」

「 二人共 良う言うてくれた 」

「 なれど善行様 御影が遊佐様を襲いし時は 」

「 言う迄も無い 其の時は全力で遊佐様を御守りしてくれ 」

「 はっ 御任せ下され 」

  頷く黒丸を見詰めつつ 懐から矢立と紙を取り出した善行は継ぐ可き言

 葉を認(したた)め 認めた文を苦無の持ち手の輪に結び様 荒屋目掛けて

 力任せに打ち込み

「 黒丸 名無し 俺が戻らぬ時は大儀も遊佐様の事も諦めよ

  あの男は 左近めは 巫女(ふじょ)組も始末する積もりだ

  故に 其の前に巫女組を連れて山を抜けよ

  其の折りは あの女御と於夕も頼む 」

「 善行殿 一体何を為さる積もりでござる 」

「 黒丸 此れは俺の仕事だ 尾(つ)いて来るな 」

「 … 真逆 赤浦へ 」

「 善行様 今宵の赤浦は何時にも増して厳しい張りとの事にござる

  御近付きは御止め下され 」

「 名無し 御前もだぞ 尾いて来るな 」

  言うなり 善行は 今一度荒屋を睨み付けて土に埋もれた石段を駆け下

 りて行き 透かさず後を追おうとした名無しへ

「 待て 今追おては如何に御前でも気付かれ様 」

「 しっ 然し御頭 」

「 行き先は倫組の組屋敷と判って居るのだ 間を措いて行こう 」

「 御頭 善行様は何を為される御積もりで 」

「 判らぬ 判らぬが 善行殿を死なす訳には行くまい 」

「 真逆 倫組の組屋敷に忍び入ると 」

「 忍び入るのは俺だけだ 御前は茂菜様へ継ぎを入れろ 」

「 … 茂菜様へ … 」

「 何だ 不満か 」

「 いっ いえ … 」

「 あの御方はそんじょそこらの男では満足せぬ御方だ

  久方振りに御前が行って抱いてやれ 」

「 おっ 御頭っ 御存知でしたか 」

「 当たり前だ 

  逝かせてくれぬ男の首を掻き切らぬとも限らぬでな

  たまには腰の立たぬ程慰めてやるが良い 」

「 はっ はあ

  にしても御頭 倫組と左右組 共に伊賀の者であるのに此の二組の間に

 一体何があったのでござろう 」

「 ふっ … 元凶は あの善(よ)がり声の主よ 」

「 あの女御が 」

「 ふっ 名無し 聞いて驚くな 

  あの女御 真は女御では無く男なのだ其うだ 」

「 … はあっ … おっ 男 まっ真逆 …

  一度 用を足して居る処を覗き見させて頂きましたが 竿も玉も付いて

 は居りませんでしたぞ 」

「 … 名無し 御前 」

「 おっ 御嬢は覗いては居りませぬ 」

「 真だな 」

「 はっ 此ればかりは嘘偽りはござらぬ 」

「 全く 御前の女陰(ほと)好きには呆れるわ 」

「 はは … 其れで あの女御の何処が男なので 」

「 己れで己れの物を羅刹 … 切り取った其うだ 」

「 なっ 何と勿体無い … 

  故に 右近を名乗らず亜由などと女御の名を 」

「 其の様だな 」

「 其れで 元は男のあの女御が一体何をしたのでござる 」

「 あの女御 倫組の頭領 服部源心の情夫(おとこ)だったのだが 女御に

 成った途端別れの文を渡された上源心が妻を娶ったのを恨み 倫組の留守

 を狙うて屋敷を襲った其うだ

  右近組の動きに気付いた右近の父は 直ぐ様左近組を率いて後を追うた

 のだが時既に遅く 留守居の者らは膾(なます)に斬られて皆殺しに遭い 

 源心の女房は右近組の者らに輪姦(まわ)された挙げ句 眼は潰されて舌も

 抜かれ耳を削がれた上 … 腹も裂かれて居った其うだ 」

「 … 子を … 宿して居りましたか 」

「 うむ まだ在る 

  あの善(よ)がり声 取り出した子の尻に小槍を突き刺し真っ赤に焼いた

 鉄鉢を頭に被せて脳を割り 其れでも飽きたらぬのか終いには臭水(くそう

 ず)をぶっ掛けて火を着け 庭に晒して高笑いをして居った其うだ 」

「 … 何とも 惨い仕打ちを … 」

「 其の時だ 間が良かったのか悪かったのか 高笑いをして居る最中に

 役目を終えた倫組が戻って来た其うだ 」

「 倫組の頭領の顔の傷は其の時の 」

「 うむ 善(よ)がり声を守る可く立ち塞がった右近の父を源心が斬り 其

 の源心の顔面を左近が斬り 左近の背中をあの御影が斬った其うだ 」

「 御影も其処に居りましたか 」

「 善行殿が申すには 倫組は前田に従い越前の府中に移ったばかり

  新屋敷へ招く可く誘ったのであろうと … 」

「 … 前田が府中に移りしは確か … 」

「 天正三年(1.575年)の事だ 奴の歳が気に掛かるのか 」

「 既に調べてござる 」

「 だと想うたは 御前程他人の歳を気に掛ける者は外に居らぬでな

  で 奴は幾つだ 」

「 永禄四年(1.561年) 三月の生まれ との事にござりますれば今年で

  … 二十二と成りまするが …

  左近は十五の若造に斬られた事に成りまするな しかも背中を 」

「 乱撃とは其う言うものであろう

  何時 何処から刃(やいば)が飛び出して来るか判らぬものよ …

  名無し 御主とて 散々験(けん)して居ろう 」

「 はっ 確かに 」

「 だが 相手はあの左近なのだ 

  乱撃の最中とは申せ あの男に一撃を加えるなど

  あの若造 やはり只者では無い 」

「 歳や経験に関わり無く 其の時勝った方が強い でございましたな 」

「 うむ 当たり前の事だがな 

  殺し合うのにたらればは無いのだ 其の時勝った方が生き残る

  其れだけの事よ 」

「 然し … 可笑しな事に成ってしまいましたな 」

「 全くだ 」

「 天目山で勝頼様らとはぐれた我らは 木賊(とくさ)村で織田勢に囲まれ

 もはや此れ迄と覚悟を決めた其の時 左近の使いで現れたのが善行殿でご

 ざいましたな 」

「 命を救うてやる故仲間に加われとは …

  武田の傍人(ぼう)組も随分と舐められたものよと 初手は斬る積もりで

 居たのだが 」

「 命を救うてくれると言うて居るのでござる 

  乗らぬ手はござるまい 」

「 なれど 既に勝頼様らが御自害為されて居られたとはのう … 」

「 言うてし申ては我らが後を追い兼ねぬと想うたのでござりましょう

  いや 我らと言うより 巫女組の身を案じたのやも知れませぬな 」

「 妹御の於ゆう殿とは真の兄妹なるも 未だ行方知れぬ母は育ての母と言

 うて居られた故 身の上は我らと同じ 」

「 はい … 戦で父も母も失い頼る縁者も居らず 其の日を生きる事さへ

 難い我らを今は亡き巫女組の頭領 望月千代女(ちよめ)様が母と成って育

 てて下されたのでござる 」

「 巫女(ふじょ)組を守る傍人(ぼう)人組としてな 」

「 其れも生きる為でござる 飯を喰わせて頂くには御役目を果たさねば成

 りませぬ故 」

「 代わりに 人を殺す技を身に付けねば成らぬがな 」

「 御陰で此れ迄生きて来れたではござりませぬか …

  御頭は後悔為されておいでで … 」

「 後悔 … 判らぬ …

  然れど 御前の言う通り生きて来れたのも又事実 …

  だが 其れで何が残った 

  我らの様な浮浪の子が増えただけではないか 」

「 … 善行殿も 同じ事を申されて居られましたな 」

「 うむ … 」

「 其して 会わされた御方が 」

「 遊佐秀光様 若いが学の有る御方よ …

  此度の院 集まり来る子らに人を殺す技など教えては成らぬ 代わりに

 学を教えて頂くのだ 其の為には … 」

「 遊佐様と其れを佐(すけ)る善行殿が居らねば成りませぬ 」

「 其う言う事だ … 

  一度救うて貰うた命だが

  我らは捨てる覚悟で臨まねば成らぬ 」

「 では御頭 そろそろ … 」

「 うむ 」

  応えるなり

  音も無く 土埃が舞った

                         つづく




 




 


 

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