御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十四

           誑 か し

           たぶらかし



「 戻ったぞ善行 何か判ったか 」

「 はっ 村島の手の者が多根道の崩れた岩肌に柵を据え続けて居りまする

 は一見 防柵の様にも見受けられますものの 真は … 」

「 … 桟(えつり)か 」

「 はっ 防柵など此の期に及んで必要無き物なれば 」

「 ふっ 考えたな狐蛇め 渡っては落とし道を下る積もりか …

  後は何処で奪うかだが … 善行 汝(うぬ)ならば何処で仕掛ける 」

「 はっ 奴ら 下り終えの多根村から二宮へ出二宮の船着き場から芹川

 長曽川 邑地の潟と川船で下り気多大社前の宮之浦で海船に乗り換えるも

 のと思われます故 どうせなら海船に積み込ませた処で … 」

「 うむ 俺も其うする 」

「 成れど御頭 下り終えは前田方も手薬煉(てぐすね)引いて待って居りま

 しょうに あの男如何にして抜ける積もりでしょうや 」

「 ふっ 其れは知らぬ だが 奴には抜ける策が有るので在ろうよ

  其処は奴を信じ任せて遣るさ 」

「 御頭らしゅうござる …

  御頭 奴が 御影が又候(またぞろ)出張って参ったと耳にしましたが

  やはり殺りますか 」

「 殺らんでどうする 行き掛けの駄賃と云うやつよ

  あの餓鬼 俺の邪魔ばかりしおっていっ 此度此其決着を付けてやる」

「 … 倫組は … 源心の兄貴は 如何為されます 」

「 元を正せば 奴と右近との間の事よ

  故に 倫組は右近組に当たらせる 右近も其の積もりで居る故な 」

「 … 囮にしますので 」

「 言わずもながよ あ奴の御陰で我らは伊賀を追われる身と成ったのだ

  其ればかりか … くっ 思い出しただけで背中の傷が痛むわっ 

  此れ迄 組の力が落ちては成らぬとあ奴らを生かして措いたが もはや

 容赦はせん 兄弟と謂えども此の責任はあ奴の命で償うて貰わねば成らぬ

 でな 手の者らも同罪よ 右近組丸ごと倫組にくれてやる

  ふっふっふっ 右近組だけでは倫組には勝てぬ 時を稼いでくれたなら

 ば其れで良い のう 」

「 はっ 」

「 処で善行 御前の人妻好きが此んな処で役に立つとはな 流石我が左近

 組の小頭 誑かしの善様とは良う言うたものよ 」

「 御頭 誉めて居られるのか貶(けな)して居られるのか何れでござる 」

「 誉めて居るのに決まっておろう 

  瓢箪から駒とは正に此の事 真逆御前が誑(たらし)込んだ女御が熊沢の

 女房であり あの狐蛇の妹であったとはのう … 」

「 はい 甲斐では好みの女御に巡り逢えぬまま越後へ戻った其れがし 久

 方の市井の香りに股間が疼いて堪らず 艶紅売りに身を扮したまま春日山

 の城下を物色して居りましたならば 漸く其れがし好みの内儀が艶紅を唇

 に点(さ)しつつ物欲しげに色目を使うて来ました故 其れがしも然り気無

 く粉を掛けた処 … 」

「 股を拡げたか 」

「 はい 余程男に飢えて居った様で 哀れな程枯れて居りました故夫が留

 守な事に此れ幸いと其の夜から毎夜通い詰めた或る夜の筝でござる

  能登での戦が終わりますれば夫や兄に従い新発田へ行かねば成りませぬ

 故善様 せめて其れ迄の間だけでも私を御慰み下されませ

  と言うて来ました故 此れは何か在ると急ぎ御頭へ御報せした次第でご

 ざる 」

「 うむ 越後は蒲原郡 新発田城主新発田重家なる男

  上杉の御館(おたて)の乱の折りには景勝へ付いて居たが今では反景勝方

 の急先鋒なのだ

  御前の其の報せに直ぐ様新発田を探らせたならば 温井の村島が手土産

 持参で降ると言うではないか 奴らに手土産などあろう筈も無く再び御前

 の手練の出番と成ったな 」

「 はい 其の手土産 初手は温井の首かと想いましたが今更奴の首など何

 の価値もござりませぬので 其れが何で在るのかを口にした時には朝にな

 って居りましたは 」

「 ふっ 御前の物が絶えず上下の口を塞いで居たのであろうよ

  言いたくても言えぬ筈だ 」

「 はっはっはっ 御尤も 

  成れど其の内儀名を於夕と申しますが 真は熊沢と別れる積もりで居っ

 た其うにござる 」

「 兄の村島との仲を気づいて居ったのか 」

「 其の様で …

  兄の尻の穴を塞いだ物で己れの女陰(ほと)を突かれるなど想うただけで

 堪えられぬと 熊沢との交(まぐ)わいはずっと拒み続けて来たとの事なれ

 ば 哀れな程枯れて居たと言うのも納得でござる 」

「 内儀では無いが 女御の尻でさへ好かぬのに男の穴に一物を入れ合うな

 ど 想うただけで反吐が出るわっ 」

「 其れがしも女御の女陰(ほと)が一番でござる 」

「 御前の場合は但しが付くのであろう … 年増の人妻とな 」

「 はっはっはっ 確かに 年増も年増 大年増が好みでござる

  後腐れ無く別れられますので … 其の為には如何なる情を持っても掛

 けては成らぬのでござる 後に何かと面倒な事に成りかねませぬ故 」

「 全くよ 女御の情に絆(ほだ)される男の気が知れぬ

  女御など 子を産む道具に過ぎぬ生き物よ 道具に過ぎぬ生き物に情な

 ど 持つ事も掛ける事も出来ぬわっ 」

「 … … 真に … … 

  とは申せ 少々出遅れてしまいましたな 」

「 いや … 早過ぎた程だ … 

  狩られたのは今日で三人目 此れ以上失うては流石に黒丸も良い顔はせ

 ぬであろうしな 」

「 引き上げさせますか 」

「 うむ 俺の命ある迄御前山(おまえやま)に潜んで居れと伝えよ 」

「 はっ … 右近様へは 」

「 我らは明日にも此処を引き払う 故に右近組は我らと入れ換わり此の眉

 丈山(びじょうざん)へ移れと申し伝えよ 」

「 はっ で 我ら左近組は何れへ 」

「 石動山城だ 無論巫女(ふじょ)組も連れて行く 」

「 石動山城へ 此れは又何故でござる 」

「 般若員快存(はんにゃいんかいそん)からの申し出よ

  温井らに籠らせては成らぬとな 近付く者在らば … 」

「 斬っても良いと 」

「 うむ あの城は 七尾城攻めの戦況を把握す可く謙信が築いた城だ其う

 だが 物見櫓に過ぎぬ故守るには向かぬ城よ 

  だが 其の様な城でも侍とは何かと籠りたがる生き物であろう 」

「 確かに 」

「 衆徒らに取っては天平寺の寺院が正に一所懸命なのだ 故に 目障りな

 あの城は戦が始まったと同時に火を放ってくれとの事だ 」

「 背火(はいか)の陣 と成れば 温井らとて後へは退けませぬな 」

「 うむ 端から退けぬがな

  今日は七月の七日 開戦迄恐らく後二十日も在るまい … 

  のう善行 多根道は石動山城の真下を通る 故に其れ迄間諜狩りの振り

 をしつつ高見の見物と洒落込もうではないか 」

「 はっ … では其れがしは此れで 」

「 善行 」

「 其の於夕とか申す女御は 始末したのであろうな 」

「 はっ 熊沢の死の報せに後を追うた事に致しましたが 」

「 うむ 其れで良い

  何事も 後腐れの無い様にせねば成らぬでな … 」

                         つづく















  

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