御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の二十一

        兄組編     其の仁

            

            盗賊大名

               

             ※ 加筆訂正編集中

               でござりまする



  頬を吹き撫でる風が心地良く過ぎて行く

  速くは無いが

  船はぎこちなくも緩やかに

  進んで居る様である


「 宏実様 此れで良うござろう 」

  房髪が声を掛ける

「 出来たか 」

「 ちゃんこと見て下され 」

  房髪が指差す指南魚が浮かぶ桶は

  縁に刻んだ北東を示す印(しるし)が舳先と一直線に成る様に 上下左右

 に張った綱で宙に固定されて居る

「 うむ 上出来だ

  一圭 もう日が暮れる張りを残し皆を休ませよ 」

  はっ と応ずる一圭を残し宏実は屋蔵の屋根に上りごろりと横に成る

⦅ … 爺殿や秋実様は父上の生死の行方を探れと言うて居られるのか …

   あの後 杉江屋殿の調べで

   一本杉館を襲いし者らは 浅利の配下十狐組と申す者らで間違い無し

 との事であったが 真なのであろうか … 

  当時 安東 南部 浅利と三家の間には攻めぬ侵さぬの不文律があっ

 たと伝え聞く 一本杉館は其の要の地 浅利家が其れを犯し交易の利を棄

 てて迄一本杉館を襲う理由は一体何なのだ … 

  … やはり 浅利家の騒動が発端なのか …

  だが 浅利則祐殿の死は一本杉館襲撃の四年も前の事 … 四年 …

  何かがあったのだ何かが 思い出せ宏実 あの頃の事を 

  あの時期目にし耳にした浅利家に関わる全ての事を思い出すのだ … ⦆

    

  

  

          目次

      御影 弟組  MIKAGE OTOGUMI



  其の壱    投矢の棒

  其の弐    禽獣に五徳

  其の参    於蓮

  其の四    敵

  其の五    白斑の鷹

  其の六    撃っ破

  其の七    水神流夷

  其の八    金丁を為す

  其の九    禿

  其の十    天女と羽衣

  其の十一   夏の蝿

  其の十二   嫌な奴

  其の十三   口寄せ

  其の十四   誑かし

  其の十五   夢告

  其の十六   茂菜の苛立ち

  其の十七   葬送の御霊魂玉

  其の十八   兄組編    其の以

          杉江屋にて 

  其の十九   兄組編    其の呂

          西の丸の望楼にて

  其の二十   兄組編    其の波

          秋実      

  其の二十一  兄組編    其の仁

          盗賊大名

  其の二十二

   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の二十

        兄組編     其の派     


            秋実     

         

         

  … さ ま … 様 … 実様 … 宏実様 御気を確かに宏実様 」

「 … いっ 一圭 … おっ 俺は どうしたのだ … 」

「 はい 手の者が申すには 溜まり水が抜けた途端に倒れられた との事

 でございます 

  汚水にまみれた御身体は既に浄めてござる 先ずは此れを 」

「 … 此れは 何だ 」

「 其れがしの 股肉でござる 」

「 一圭 」

「 ははっ 介子推の美談は恐らく偽りでござりまするな

  己れの股肉を切り取ってし申ては 大事な御方を御護りする処か己れの

 身さへ危ういものと成り兼ねませぬ

  此れは真鱶[まふか:毛鹿鮫(もうかさめ)]の身を 清い海水に浸したもの

 でござる 獲れ立ては小便臭く無く美味なものでござる 騙されたと思う

 て食して下され 」

  言われるがまま がぶりと噛み付いた鱶肉は 赤身の鉄気(かなけ)の後

 に海水の塩味と桜色の肉の甘味が混じり合い一圭の言葉どうり真に美味な

 ものであった

「 洗い流れた汚れが撒き餌に成りましたか 大小の魚が船の回りに集まり

 出し 其の魚を狙うてか鱶迄もが寄って来ました故鈴之助が槍で三尾突き

 上げたのですが 女御達が此の様な大きな魚は捌いた事がございませぬと

 皆手をこまねいて誰も手を出さずに居た処 彼の御老輩が鱶は骨無き魚故

 苦も無く捌けますると申した故 ならばと茂平が刀を振るうた処すぱりと

 切れましたので後は皮を剥くだけで良うございました 」

  最後の一片をごくりと呑み込み様二の腕で口を拭った宏実は

「 又もや御老輩に助けられたな さっきは礼を言いそびれてし申た

  一圭 御老輩は今何処に 」

「 … 其れが … 既に身体は悪疫に蝕まれて居た様で …

  たった今 息を引き取ってござる 」

「 何と … 綱を伝うあの身のこなし 其の様には見えなかったが …

  流石は秋実様の手の者よ 見倣わねば成るまい 」

「 組内では 一番の若僧であったと言うて居りましたが 此れで秋実様の

 許へ 皆の処へ逝ける 懐かしの良杉丸の船上で死ぬるのは本望じゃと最

 期は笑顔で御逝き為されてござる 

  其の今際の際に 宏実様に御渡し下されと 此れを 」

「 此れは 何だ 」

「 はっ 何でも指南車ならぬ指南魚と申す方位具だ其うで 」

「 方位具 … 」

「 はっ 魚を模した其の木魚の中には棒状の磁石が詰め込まれて居り 水

 に浮かべますれば木魚の口は必ず南を指す其うでござる 」

「 我らが剥き出しのまま用いる方位針と違うて 何とも洒落た物だな 」

「 御老輩も此の洒落物に端から目を付けて居たらしく 最後の御役目を終

 えて船を降りる際記念の品にと船長(ふなおさ)に頼み込んで漸く貰い受け

 以来御守りとして肌身離さず持ち続けて居た物だ其うでござる

  宏実様 御老輩は

  風は穏やかなれど西の風に変わり潮も南から北へ流れて居りますれば

 もはや能登へは戻れませぬ故 舵は下ろさず其のままに爐靴〞の陣を組

 み櫓を漕いでは休み漕いでは休みを繰り返し ひたすら北東を目指して漕

 ぎ進みますれば必ずや大川(雄物川)が流れ出る土崎の湊へ行き着きまする

  なれど湊の南隣りは由利郡 間違うても其方の浜へ船を寄せては成りま

 せぬ と申して居りましたが 申し訳ござりませぬ肝心の爐靴〞の陣と

 は如何なるものか聞きそびれてし申たでござる 」

「 … 爐靴〞の陣 … 」

「 御存知で 」

「 うむ 爐靴〞は品だ

  一圭 折れた帆柱や外れた甲板を使うて品の字の如く 此の良杉丸の船

 体が一つ抜きん出る様三船をしっかりと繋ぎ止めよ 其れが終えたならば

 亡骸は良鷹丸へ病者の方々は良馬丸へ御移し致し健常な者のみを良杉丸へ

 集め措け 」

  はっ と立ち欠けた一圭は膝を付き直し

「 宏実様 終わりましたならば声を掛けまする 

  其れ迄御身体を休めて居て下され 」

  言うなり 踵を返した其の脚は垣立ての上縁(うわべり)を蹴り様高く跳

 び 羚羊(かもしか)の如き美腿(びたい)は靱(しなや)かに伸びて宙を翔け

 陽に照らされて逞しく盛り上がる肉の影も美しい其の背に 大きく波打つ

 紅葉色の房髪がふわりと垂れ落ちる間に一圭は隣船の人と成る

  宏実は 鱶肉を浸して居た桶の上縁(うわぶち)に方位を刻み 指南魚を

 浮かべて暫し眺めて居たのだが

⦅ … 波は穏やかであるのに 桶の中は此の揺れか … ⦆

  ふむと思い直した宏実は 桶を抱えて櫓の屋根へ登り 船柄に桶を吊り

 下げ 其の軸に背を凭(もた)れ掛け乍ら腰を下ろす

  其れを待って居たかの様に

「 宏実様 介子推様からの御届け物でございます 」

  一圭の手の者が 安物の湯飲み茶碗と縁が欠けては居るものの珠洲焼き

 と一目で判る片口鉢を宏実の右脇へそっと差し出し 足早に持ち場に戻っ

 て行った

⦅ … 御酒が残って居たのか ⦆

  湯飲みを口にした宏実は透かさず紅葉色の房髪を目で追う 追われた房

 髪の主はにやりと笑みをくれて寄越し 再び垣立ての上縁(うわべり)を蹴

 って宙を翔け美背(きょうはい)を宏実に向けて良鷹丸へ跳び移る

  湯飲みの御酒が五臓六腑に染み渡り漸く人心地付いた宏実は 筵の列の

 傍らに横になり目を瞑る

⦅ … 今見たのは 夢であったのか …

  義総様が予見為された通り あの翌年[大永七年(1,527年)] 秋実様ら

 が土崎の湊へ付いて間も無く戦が始まった …

  秋実様の助勢願いを当然の如く受け入れた湊安東家は 御手並み拝見と

 ばかりに先鋒の一勢に加えたのだ …

  戦は分けたものの 秋実様率いる弟組の目覚ましい活躍振りに両安東家

 は畠山家との交易を復したばかりか 小坂村へ出張り所を設ける事吝かで

 無しと心良く了承してくれたのだが 其れは比内浅利家の強い要望でもあ

 ったのだ

  当時の鹿角の地は其の殆どを南部家に押さえられ 浅利家は小坂村を含

 む北部の数村を手にして居たに過ぎず 西の比内の地を除く三方を南部家

 に囲まれ乍ら多兵を配せぬ北鹿角の守りは脆弱其のものであり 安東家の

 指揮の下共に戸沢家と戦った御影弟組の力量を思い知る浅利家の当主浅利

 則頼は 此れ幸いと秋実様の申し出を諾了したのだ

  既に廃墟と化して居た一本杉館建て直しの費用も畠山家が持つ事で腹も

 痛まず何より 小坂川と米代川の津料も入り人手も目付を置くだけで済む

 のだ浅利家に取っては願ったり叶ったりな事ではあったのだが …

  変わらぬ北鹿角の守りの危うさも然る事乍ら 小坂川と米代川が交わる

 錦木塚の辺りが南部家との境の地である事に秋実様は危念拭えず 一本杉

 館完健を見ぬ今が機と事もあろうに手の者も伴わず 南部家の本城不来方

 (こずかた)の城へ単身出向いて行かれたとの事 …

  其の様な事 俺には到底真似出来ぬ … ⦆

 疲れた身体に御酒が睡魔を誘い 宏実の脳に再び過去が入り込む


  大永七年(1,527年)

  期せずして 戸沢領へ放って居た戦物見の報せを共和す可く 南部家の

 諸将が一堂に会して居た最中の来訪である

  安東方の先鋒として緒戦を勝利へと導いた訪人率いる強者共が 小坂村

 へ陣取られては喉元に刃を突き付けられたも同じ

「 有無を言わせず斬って棄て 直ぐ様小坂村へ攻め入る可し 」

  居並ぶ将の大半は口を揃えたものの

「 我が南部と易を交わしたいと … 

  一人で参ったと … 

  ほおうっ 面白其うな男だな … 」

「 父上 如何なる男か 私(わたくし)も興味をそそられまする 」

「 うむ … 構わぬ 通せ 」

「 しっ 然しっ 」

「 詰まらぬ男であるならば此の場で斬る 其れで良かろう 」

 南部家の当主南部安信は意想外にも拝謁を許したのである

 陰鬱たる気が漲(みなぎ)る広間へ颯爽と姿を現した訪人が 涼やかな面を

 安信 晴政親子へ向けて平伏した其の刹那

「 此の地の品を求めに参ったなどと戯れ言を申すな 此の痴れ者があっ

  共も伴わずに参ったは 我らの油断を誘い御本城様の御命を奪う積もり

 なのであろうが 其うはさせぬ

 下手に動かば其の首無きものと思い知れっ 」

 南部家の若き重臣浄法寺重政なる者が 行きなり声を荒らげて秋実の口上

 を遮り刀を手に取り様片膝立てた

  連(つら)れて数人の将が咄嗟に脇差しの柄へ手を乗せて身構え 帳台構

 えに潜む武者らの気組みも見る間に高まり緊張が走る

  秋実は張り詰まる重苦しい気を気にも留めぬ素振りで 平伏したまま口

 上を最後迄言い遂げてゆるりと面を上げた

「 … 安信様 並びに晴政様 面と向かわねば言えぬ事もござります故 

 許しを得ず面を上げました事御赦し下されませ 」

  安信は構わぬと小さく頷き 続けよと頷いた分だけ顎をしゃくる

「 其れがし 両安東家並びに浅利の御三家と既に交易の約を為して居りま

 すれば 今此の場で命果て様とも悔いはござらぬ なれど 

  何処の何方か存ぜぬ御方に痴れ者呼ばわりされたまま逝ってし申ては 

 我が主 畠山修理大夫義総様に対し面目立たぬばかりか御先祖様に対しま

 しても彼の世で顔向け出来ませぬ … 故に

  此の首差し上げる前に 何処の何方かの御首(みしるし)は手土産代わり

 に獲らせて頂きまする … 」

「 ぬううっ言わせて措けば図に乗り居っていっ 強がるのも程々にせいっ

  此の首くれてやる積もりなど更々無いが 此の俺と汝(うぬ)の首の重さ

 が同じと思うてか

  痴れ者如きに名乗るなど何とも馬鹿馬鹿しいが 土産も無しに冥土へ逝

 かせる訳にも行くまい 良いか 情と思うて良く聞け 

  我こそは浄法寺修理介重政なり 畠山庄司次郎重忠様が御三男 小次郎

 重慶(しげのり)様を祖とする家柄だ 能登の畠山家の臣などと どうせ偽

 りで有ろうが真の畠山の血を引く此の俺の手に掛かり彼の世へ逝けるのだ

 有り難く思へ 」

  秋実の肩が小刻みに震え出し 震えは大きな揺れに変わり終には声を上

 げて笑い出す

「 ふんっ 恐ろしさの余り気が触れたか 」

「 気が触れたと … 真逆 真に笑うて居るのでござる 」

「 何だとう 」

「 いやはや 此れが笑わずに居られましょうや … 

  浄法寺殿とやら 今程重慶様が重忠様の御三男と申されましたかな 」

「 言うたがどうした 」

「 はて … 其れがしのとは違いまするな 」

「 何だ 何が違うと申すのだ 」

「 大夫阿闍梨重慶(たいふあじゃりちょうけい)様 … 

  重慶様の事でござりまするが …

  其の重慶様が重忠様の御三男とは片腹痛し 彼の御方は五男の末子でご

 ざる 更に 重慶様は健保元年(1,213年)長沼宗政なる者の手に掛かり御無

 念な御最期を迎え為されて居りますれば 浄法寺家の祖になど成り様筈が

 無いのでござる 」

「 なっ 何っ 此の期に及んで戯れ言を申すなっ 」

「 浄法寺家の真の祖とは 重忠様の大叔父に当たられる高山三郎重遠(しげ

 とう)殿の曾孫 高山次郎三郎重保殿が上野国緑野(みどの)郡浄法寺村へ居

 を移されたのが其の始まりでござる …

  奥州合戦の後 此の陸奥国の糠部(ぬかぶ)郡の一部を給された際 其の

 まま浄法寺を名乗り給地も同じ名にしたのでござる

  其の後 重忠様御謀反との報せに類難を恐れて山の奥深く御避難為され

 て居た大木戸家の給他を奪ったばかりか 重忠様の御一族が滅びて後 謀

 反の疑いが晴れたのを良い事に箔を付ける可く 坂東武者の誉れ高き畠山

 の名を騙ったのであろうが 出自を示す紋が同じ小紋村濃である事も然る

 事乍ら 浄法寺家の初代の御名が重忠様の御嫡男重保様と同名であり其の

 御二人が時を同じくして御亡くなりに成られた事が 名を騙る切っ掛けに

 成ったのでござろう … 浄法寺 … 重政 … 殿 … 」

「 くっ くうううっ ええいっ 黙れ黙れ黙れえいっ 」

  吠えるなり 重政は秋実の背後に仁王立ちに立ち刀を抜いた 

  同時に 帳台構えの襖が音を立てて開き数人の武者が勢い良く躍り出る

 も 九戸信仲 石川高信の両名が座したまま両手を拡げて武者らを制し 

 安信は大きな眼(まなこ)を重政へぎろりと向け様 元の座へ戻れと ぴし

 りと冷たい音を鳴らして扇子を振り 鬱憤遣る方無い体で退(しりぞ)く重

 政とは裏腹に 其の間一度も後ろを振り向く事無く涼やかな面を向け続け

 る秋実の其の姿に 安信は此の男の真を見たのであろう

  閉じた扇子でぴしゃりと膝を打ち畠山家との交易を諾了したのであった

  義総は元より蔵治さへ 真逆南部家と迄も交易の約を交わすなど想うて

 も居らぬ事であったと 随分と驚いた様だが当の秋実は

「 南部家とて 米代川を使える事で此れ迄掛かって居た都迄の費用も日

 数も大幅に削減出来るばかりか 津料を払うても尚余り有る利益が得られ

 るのでござる 更に戦をせぬ事で銭よりも尊い人財を失わずに済むのでご

 ざる 利に聡い主であるならば 諾せぬ筈はござりますまい 」

  涼やかに応えたのであった

  何処か横柄で其れで居て人懐っこく 人を惹き付ける何か不思議なもの

 を御持ちの御方であられたと 秋実を知る者は皆口を揃えて言うて居たの

 だが … 其の秋実は永禄四年(1,561年)の二月享年六十七で身罷られ 翌

 三月に産まれた尊治は 其の日が来る度に秋実様の生まれ変わりよと良く

 言われる羽目に成る

  生涯妻を娶らず 為に子の無い秋実亡き後 御役目に穴は空けられぬと

 蔵治は直ぐ様政治を向かわせたのだが 一人子の政治を何時迄も彼の地へ

 留め置く訳にも行かず 政治の嫡男宏太郎に早目の元服を済ませた蔵治は

 秋実の実の字を授けて宏実を名乗らせ其の機が来るのを待った …

  だが 永禄九年(1,566年)の秋 

  畠山義続 義綱親子は長続連 遊佐続光らに能登を追放され直ぐにも二

 人の後を追いたい蔵治ではあったが

「 もう直に船が戻る 事情を知らぬ護衛の者らを残したまま両御本家様の

 後を追う訳には行かぬ 両御本家様へは我らの真意を御伝えし奸賊共には

 心意を偽り 船が戻り次第護衛の一番組と留守居の二番組と共に一気に能

 登を抜ける … 政治への継ぎは其の後だ 」

  其う決めた蔵治ではあったが … 戻った護衛の組頭は想わぬ事を口に

 した

「 一本杉館 何者かに襲われ落館炎上の上総員討ち死に なれど政治様の

 亡骸は何処にも見当たらず其の生死の行方も知れませぬ 」

  其の凶報に皆言葉を失い 責任を感じたのか一番組は密かに集い 政治

 の生死の行方を探る可く手近にあった船を奪って鯨海へと漕ぎ出したもの

 の 嵐に見舞われ船は敢えなく沈没 一番組は海の藻屑と消え蔵治らは能

 登を抜ける機も失ってしまったのである

  翌々年の永禄十一年(1,568年)

  義続 義綱親子は能登を奪還す可く兵を挙げ蔵治も其れに呼応しようと

 したものの 温井と三宅の兄弟に厳しく張られて動くに動けず運にも見放

 され 義続親子は已む無く撤退 蔵治らが能登を抜ける機は完全に断たれ

 てしまったのである

  以来蔵治ら御影の者らは隠忍自重に徹し再び其の機が来るのを密かに窺

 って居たのであった

  其して天正五年(1,577年)の七月 其の時が来た

  

⦅ … 遊佐と温井の兄弟が長続連を裏切り上杉勢を迎え入れる事を探り知っ

 た爺殿は 其の騒ぎに紛れて春王丸様と共に城を抜ける事を決意し 其の

 旨皆に伝えたのだが …

  何処から 誰が洩らしたのだ … 真逆 義春様 …

  でなければ辻褄が合わぬ 

  やはりあの時 気多大社に籠り尊治を 弟組を待つ可きであったか …

  過ぎた事を悔やんでも仕方無し 

  今はする可き事をする迄よ …

  にしても … 

  邪馬台無(やまいむ)様と卑弥呼 … 安日様が同一な人物であろうとは

  流石は義総様 鋭い御方よ

  安日とは 白日の下 祖霊を祀る廟の中で安寧の儀礼を行う者の事を言

 うのだ 其して兄の長髄彦(ながすねひこ)様は長い洲の根を治める長(お

 さ) 長い洲とは今の淀川の洲の事だ …

  爺殿も 秋実様も 其して義総様も

  あの頃が一番楽しき時であったろうな … ⦆

  想いつつ 徐に目蓋を開け様とした其の時

「 皆の者 声を合わせよ 櫂を合わせよ 行くぞ せえのっ 」

  茂平の野太い声が響き 

  ばしゃりと水を叩く音の後に 

  開けた目蓋の睫毛が風に揺れ 

  爐靴〞が波を立てた


                          つづく


                         

  


  

  


  

  


   

 


  

  

 



 




  

  


 


   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十九

         兄組編   其の呂   

            

         西の丸の望楼にて


             

              


  大永六年(1,526年)の夏

  絶頂を迎えつつあった能登国守護畠山義総(よしふさ)は

  兼ねてから望んで居た七尾城の増築を漸く終え

  其の祝いの歌会を盛大に催し 

  盛会裏の内に終えた歌会の後は其のまま酒宴と成った

  宴もたけなわ 

  誰が誰の声やらも判らぬ程騒がしい会話が乱れ飛ぶ中

  偶(たま)さかに酔客の他愛も無い会話を義総の耳が拾い 

  何に心惹かれたのか

  義総は酔いに任せて語り合う二人の話しに聞き耳を立てて居た


「 其う言われれば 其うよのう … 」

「 で ござろう 能因殿や西行殿ら当時歌界に名を馳せた歌人が挙って詠

 んで居られたが … 」

「 能因殿は確か … …

  錦木は 立てながらに此其朽ちにけれ 狭布(けう)の細布(せばぬの)

  胸あわじや でございましたな 」

「 左様左様 其の後世阿弥も謡曲錦木を世に出し常民に迄広く知れ渡る事

 と成りましたが 近頃は錦木や狭布の細布などの言の葉とんと耳に致さぬ

 のは何故でござろうのう … 」

「 歌は世に連れ 世は歌に連れと申します程に 言の葉にも流行り廃りが

 在るのでござろう … 現に 其れがしは一度も用いた事はごさらぬ

  其処許も同じでござろう 」

「 確かに 然り乍ら胸で合わぬ狭布の細布成る物 美しい女御に一度着せ

 て見たいものでござる 」

「 はて … 美しい女御とは 御内儀の事でござりますかな 」

「 御止め下され 其れ此其 胸を合わせる処か近頃は手さへ握っては居ら

 ぬのでござる 」

「 はっはっはっ 其れがしも同じでござる

  なれど 狭布の細布成る物 着せられぬ迄もせめて一度は手にし目にし

 て見たいものでござりまするな 」

「 真に 在れば の話しでござりまするがな 」

⦅ … ならば見せて遣る … ⦆

  義総を 横から眺めて居た冷泉為広の耳にも二人の会話が届いて居たの

 か 義総の目が其う口走ったと看て取り

⦅ 御止め為され ⦆

  と首を振り ふむと頷く義総は火照った頬へ扇子で風を送り乍ら杯を傾

 け 右の列奥に控えて居る二人の男達へ眼を向ける

  義総の視線を感じたのか二人の男は

⦅ 祝着至極にござりまする ⦆

  杯を義総へ向けて頭(こうべ)を垂れ 面を上げ様杯を呷る

  義総も杯を呷って応じた其の刹那 瞳の隅に為広と二人の男の姿が重な

 り義総の脳の中に閃光が走る 其の閃きが消えて仕舞わぬ内にと扇子で隠

 した口を為広の耳に寄せて何事かを囁き 囁かれた為広も扇子を広げて面

 を覆うも二度三度と咽び出し 咽ぶ度に為広の肩が震え其の様を端から見

 て居た者には 何時もの如く孫程歳の離れた義総の戯れ言に為広が笑いを

 堪えて居る様に見えた事であろうが 此の時ばかりは真に咽び泣いて居た

 のであった

  翌夕

  新造仕立ての西の丸の望楼へ二人の男を呼び寄せた義総は 昨夜の閃き

 を口にした

「 蔵治 秋実 何れが行くかは其方らに任せるが 

  否は申さず行ってくれ 」

「 御本家様 我ら兄弟の意は同じ否はござらぬ ござらぬが …

  我らの御家に伝わりし家伝なれど家伝は飽く迄家伝でござる 真に在る

 のかどうかも判らぬ金山(かなやま)を探して参れと申されましても 易々

 と諾とは申せませぬ … のう兄上 」

「 うむ 秋実の申す通りでござる 

  過去を振り返ってみましても現在(いま)を遡る事凡そ百年前 応永三十

 一年(1,424年)の年でございましたな 我が家の家伝を頼りに満慶(みつの

 り)様の御三男量慶(かずのり)様が 我が家の勝治様を伴うて彼の地へ向か

 われたまま行方(ゆきかた)知れずに成りました事 よもや御忘れではござ

 りますまい 」

「 誰に言うて居る此の俺が忘れる筈も無かろう 迷子に成るのが怖いの

 か蔵治 真逆臆した訳では有るまいのう 」

「 御本家様此其 誰に言うて居るのでござる 」

「 其うむきに成るな蔵治 」

「 御本家様 量慶様と勝治様共に 未だ幻の金山を探し倦(あぐ)ねて彼の

 地の山々を彷徨(さまよ)うて居られるのやも知れませぬなあ 」

「 秋実 此処には我らの外に誰も居らぬのだ 皮肉を言う前に其の嫌味っ

 たらしい御本家様は止めよ 御主もだぞ蔵治 」

  蔵治が笑みを殺して御酒を注ぐ間に 忍び笑いを浮かべて立ち上がる秋

 実は蚊遣り具に火を点じて煙を燻(いぶ)り出す

「 蔵治 秋実 家伝に多少の詐称は付きものよ

  温井の家などは 我が畠山と同様清和源氏足利の流れを汲む桃井の後裔

 を称し幸若舞いは我が家が始まりと公言して憚らぬが 三万棹を越える我

 が書庫に其の様な由緒書きは見当たらぬ 真は桃井の家から養子に迎えた

 景信の従兄の家子(いえこ)の話よ 代わりに居着いた輪島の地に湯が湧い

 て出た故 其此に井戸を掘った事に因み温井を名乗ったと記(しる)された

 物は見つけたがな 」

「 義総様 真偽の程は兎も角 他家の来歴をほじくり出す其の癖 何とか

 成りませぬのか 遊佐の者らも 御主らの出は出羽の飽海(あくみ)では無

 い真はあの七尾の湾に浮かぶ能登島よと 義総様から聞かされる度に皆辟

 易致して居るのですぞ」

「 はあっはっはっはっ … 蔵治 … 御前は遊佐家の家伝が気に入らぬ

 のではなかったか 」

「 そっ 其の様な事はござりませぬ 」

「 其れがしは 気に入りませぬな 」

「 であろう 秋実 … 総門とか申す王の土版を盗み出した臣の子孫を 

 御前達の御先祖様はあの能登島迄追い詰めた … だが 其の折りの長(お

 さ)は 今更奴らを討ったとて何の意味があるのだと兵を退いた 」

「 … 飽く迄も家伝でござる 」

「 … 蔵治 遊佐家の家伝は追う側と追われる側が入れ替わって居るのだ

  果たして 何れの御先祖様が王の土版を盗んだのであろうのう … 」

「 義総様っ 」

「 はっはっはっ 其う睨むな蔵治 遊佐家の家伝は此処からが面白いでは

 ないか 其の幾百年後 阿倍比羅夫(あべのひらふ)に従い長年の旧敵であ

 る鹿角(かづの)の … 当時は上津野(かみつの)と言うたか 賊を漸く滅ぼ

 したとある … 鹿角の賊とは御前達の御先祖様の事であろう 」

「 能登島の長(おさ) 馬身龍(まむたつ)と申す者が比羅夫に合力す可く其の

 御前(ごぜん)にて蝦夷揃来(えぞろぎ)を披露し旅(りょ:遠征)に出たと伝う話

 でござろう 其此迄は真の事なれど そもそも攻め込まれてなど居りませ

 ぬ故 其れがしは其此が気に入らぬのでござる のう兄上 」

「 … 彼の地 … 鹿角の地が西の勢に攻め込まれしは其れ迄一度きり

  … あれは比羅夫の遠征(658年)から遡る事凡そ三百年前(367年)の事

  上毛野田道(かみつけのたじ)なる者が 倭王(わおう)の命を受けて攻め

 寄せて参ったのでござる 」

「 存知て居る 当時 倭王勢に於いては最強と謳われし田道軍を 其の後

 の錦木塚の東で迎え撃ち散々に打ち負かした挙げ句に 其の田道をも討ち

 取ったと伝うのであろう 」

「 真逆の大敗北に 此れ以上の戦は益無しと倭王方は講和を申し入れ 御

 先祖様らは代わりに易を交わす事で諾したのでござる 」

「 倭王方は新羅の統治に何かと要り用な時期 御先祖様らは随分と潤った

 事であろうのう 」

「 現在(いま)の能登程ではござりますまい 」

「 嫌味の世辞は要らぬ … で 」

「 其の後多少の小競り合いはあったものの 三百年の長きに渡り平和な時

 を過ごして居ったのですが … 馬身龍(まむたつ)めに抱き込まれた飽田(

 あくた:秋田)と渟代(ぬしろ:能代)の両長(おさ)が 北海の民が攻め寄せて参

 る模様なりとの偽りの報せを比羅夫に派したのでござる 」

「 馬身龍は広き地を求めて能登島から出る事を望み 飽田と渟代の両長は

 北の海がもたらす益の増を望んだのだな 」

「 左様 … 御先祖様らは北海の民とも良好な関係を築いて居ったものを

  全く 要らぬ戦を仕掛けて来たものでござる 」

「 故に 首謀者の馬身龍を人知れず闇に葬ったのか 」

「 遊佐家の家伝では其れは見事な御討ち死にと成って居る筈でござる 」

「 ふっ 家伝とは都合の良いものよのう 」

「 何れにせよ 一族は飽海の地を貰うたのでござる 馬身龍とて本望でご

 ざりましょう 」

「 だが 念願叶うて名の通り 馬で身を立てられる地を貰うた途端 我が

 子が遊佐と名を変えるなど想うても居らなかった事であろうよ 」

「 あの折り 比羅夫は百八十艘もの船を仕立てて鯨海(げいかい:日本海)へ

 と漕ぎ出したのでござる … 其れとは別に馬身龍が合力し船は二十艘

 総艘の一割が馬身龍の船でござる 遊佐の遊の字は氏族の旗をかかげて水

 行を為す事を意味し 佐の字は佐(すけ)る事を意味する字 故に 馬身龍

 の子の馬身龍光(まむたつみつ)は新地を与えられたのを機に 相応しい名

 として遊佐の字を選び名乗る事にしたのでござりましょう 」

「 … 成る程な … 因みに御前達の御先祖様の長の名 …

  邪馬台無(やまいむ)と言うたな 如何なる意味があるのだ 」

「 真は 邪 馬台無(や まいむ)と申しまする 」

「 や まいむ 」

「 邪とは 呪術を行う者しか着られぬ特別な衣装を意味し

  馬とは 邪人の霊威を高める可く生け贄として神に捧げる為の馬を指し

  台とは 耜(すき)と祝祷を以て其の地の祓い清めを行う儀礼を言い

  無とは 雨を乞う舞雨を(まいう)を意味するものでござる 」

「 名では無く 雨乞いを行う巫女の事を言うのか 」

「 総門の王の国にては爐〞が神を爐泙い〞は水を意味する語音でござ

 る 故に其の意味は … 」

「 … 水神 」

「 左様 察しまするに 当時の御先祖様らは語音に相応しい漢字を探し出

 し 当てたのでござりましょう 」

「 邪馬台(やまたい) もか 」

「     …      」

「 邪馬台とは 八幡平(はちまんたい)と申す山の事を言うのであろう

  其の山の名は坂上田村麻呂公が名付けたと伝え聞く だが田村麻呂公が

爐呂舛泙鵑世い〞と呼んだにも関わらず土地の者らは未だに爐世い〞と

 呼ばずに爐燭〞と呼んで居る其うではないか … 察するに 御前達の

 御先祖様の女長(おんなおさ)邪 馬台無と申す者が邪馬台の女王卑弥呼な

 のではないのか … 」

「 … 当たらずとも 遠からず と申して措きまする … 」

「 何が当たらず どう遠くないのだ 」

「 卑弥呼様は田道が攻め寄せる凡そ百年も前に 既に身罷られて居ります

 れば 」

「 存知て居る … 卑弥呼とは女王が襲名する名であろう 」

「 はい … 」

「 … 意味は 」

「 はい …

  卑とは 事を執る者なり

  弥とは 美しい分身(入れ墨)を施した髪の豊かな女御が 魂振りに用い

     る弓を呪具とし

  呼とは 鳴子板の両面に遊舌(ゆうぜつ)を結び を振って音を鳴らし

     神を呼ぶのでござる 」

「 やはり巫女か 」

「 其れは合うて居りますが … 卑弥呼様は太陽を筆頭に八百万の神を呼

 び降ろし 其れを執り仕切る事の出来る唯一の巫女でござる 

  我が邪馬台無様は 水と其れにまつわる蛇や龍を祀る巫女で御座ります

 れば卑弥呼様とは格も違い全くの別人でござる 」

「 義総様 一体何を 知りたいのでござる 」

「 いや何 … 邪馬台の女王とも成れば其れ相応の奥都城(おくつき)であ

 ろうと想うてな … 」

「 其れはもう 真に見事な陵墓であったと伝えられて居りまする 

  のう兄上 」

「    …     」

「 如何為された兄上 」

「 秋実 … どうやら義総様は卑弥呼様の陵墓が邪馬台であり 其処が幻

 の金山 畠山重忠公が源頼朝公より賜りし葛岡なのであろうと想うて居ら

 れる様だ 」

「 此れは又 … 確かに 邪馬台の台(たい)の字は邪馬台無様の台(い)の字

 と同じ姿をしては居りますものの 真は臺(たい)の字の略字でござる

  邪馬台 つまり邪馬臺とは邪人の卑弥呼様の霊威が死して尚落ちぬ様

  生け贄とした馬と共に葬られし御陵墓なるも そもそも臺とは … 」

「 存知て居る … 臺とは 陵下に柩をおさめる槨室を設け階段状の陵上

 には廟所としての高堂を築いた形の字 つまりは人の手により築き上げら

 れた人工の山 故に金山では無い と申すか 」

「 はい … 尤も 廟所を建てる際 頂上を平らに均(なら)さねば成りま

 せぬ故爐〞と音する台の字でも間違いではござりませぬが … 

  金山ではござりませぬ 」

「 ふむ … 陵墓は確かに在るのだな 」

「 御座います … 其の真北の山が噴き飛んだ際 大量の灰を被ってしま

 いました故 現在(いま)では単なる犹〞と化して居りましょうが 聞く

 処に依りますれば土地の者らは未だに黒又山(くろまんたやま)と称し 崇

 めて居る其うにござる 」

「 黒又(くろまんた) … 其の名にも意味が有り其うだな 」

「 総門の王の国にては爐うら まわた〞と申す言葉なれど何時しか爐

 ろまんた〞と呼ぶ様に成ったのでござる爐うら〞とは彼女の全て爐泙

 た〞は死を意味する語でござる 」

「 間違い無く死んだと言う事か … … …

  今 彼女と言うたな … 卑弥呼にも名が在るのか 」

「 … 安日(あび) … 様と … 」

「 安日 … 長脛彦(ながすねひこ)の兄の名ではないか 」

「 … 真は 妹御でござる … 」

「 成る程のう … 

  御影の家伝 知った積もりで居たが よくよく聞いてみるものだな 

  だが 兄や一族を倭族に騙し討ちにされた挙げ句 夜麻登(やまと)の国

 迄奪われてし申たのだ捲土重来果たせぬまま此の世を去るとは 嘸や無念

 な事であったろうな 」

「 其の後 捲土重来の果てに何があったのか御存知でござりましょう 」

「 物部か 」

「 丁末(ていび)の乱(587年)にて 蘇我に敗れた物部の本宗家は亡びたもの

 の生き残った枝葉の者らは物の怪と化し 倭から夜麻登へ夜麻登から大倭

 (やまと)へそして大和(やまと)へと名を変えた王国に付属しつつ力を蓄え愈

 々と成った其の時 長年の怨み晴らす可く弓引いたのでござる 」

「 伊治呰麻呂(これはるのあざまろ)の乱 」

「 左様 … 砦麻呂暗殺により乱は終息に向かったものの大和方は其れを

 許さず 延暦七年(788年)征東大将軍に任じられた紀古佐美(きのこさみ)が

 大軍を率いて攻め寄せ来るの報せに 致し方無く阿弖流為(あてるい)様は

 母礼(もれ)様と共に兵を挙げるに至ったのでござる 」

「 … 連戦連勝であった其うだな … 」

「 中でも 巣伏(すぶし)の戦いでは大勝利であった其うにござる 」

「 では 何故(なにゆえ) 降ったのだ 」

「 降ったのではござらぬ 桓武天皇と直に講和の約を果たす可く田村麻呂

 公に従ったのでござる 桓武天皇も其の積もりで居られたものを其れに異

 を唱える貴族らに押し切られ 御二人は杜山の露と消えたのでござる 」

「 成る程 … 読み様によっては爐笋泙燭〞と読める処を敢えて爐呂

 まんだいら〞と読ませる辺り 卑弥呼の陵墓である邪馬台 … 黒又山に

 朝廷の目を向けさせぬ為なのだな 」

「 田村麻呂公は 八幡平処か鹿角の地を一歩も踏む事無く矛をおさめて居

 りますれば 朝廷に対し己れに信を措いてくれた御二人の無念に報いるせ

 めてもの抗いであった と想うて居りまする 」

「 其うとしか思えぬな 」

「 義総様 良い加減本題に入って頂けませぬか 真は金山の在り処などど

 うでも良い事なのでござろう 」

「 でかい声を出すな蔵治 脳に響くは 」

「 何だ 金山探しではござりませぬのか 折角其の気に成って居りました

 のに 」

「 秋実 考えてもみよ 例え見つけられたとて能登の我らにどうする事も

 出来まい … 義総様 真の用向きは何なのでござる 」

「 うむ … 」

  義総は 渇いた喉を御酒で潤し 

「 応仁の乱が終えて五十年経つものの 公家衆の生活は未だ困窮を極め

 日々の暮らしに喘いで居るのが現状だ 全ての公家衆を救える訳では無い

 が乱の一端を成してし申た家の者として 俺は出来うる限りの事はして遣

 りたいのだ … 」

  秋実は 蚊遣りの煙りに毒されて杯の中にぽとりと落ちた蚊を 御酒ご

 とごくりと呑み込み

「 … で … 出帆の準備が整うたならば 俺は奥州の何処へ何をしに行

 けば良いのでござる 」

「 うむ … 先ずは 良杉(りょうさん) 良馬 良鷹(りょうおう)のみなら

 ずありとあらゆる珍品美物をもとめる可く 出羽の両安東家と誼を通じ直

 すのだ 」

「 其れらを無償で分け与えまするか 」

「 蔵治 無論只でくれて遣る訳では無い

  其れ成りの見返りは頂かねばな 」

「 取るに足らぬ古書と 引き換えにでござりまするか …

  恐れ乍ら義総様 

  此度 義総様が御城を増築為された真の訳は 古書で溢れた守護所が

 手狭と成ったが為であろうと専らの噂と成って居るのですぞ … 

  其れに 両安東家は矛を交えぬ迄も長い事二家に分かれて相対して居る

 だけで無く 満家様並びに満慶様亡き後 細川勝元が北方の権益を奪う可

 く裏で画策したばかりか 畠山家は両安東家に対し悪意有りと有らぬ噂を

 流されたまま応仁の乱を迎え其の噂払拭出来ぬまま疎遠と成り現在(いま)

 に至って居るのですぞ 」

「 蔵治 取るに足らぬ古書で有るから此其 何時の日か日の目を見るもの

 なのだ 言いたい奴には言わせて措くが良い 蔵の肥やしに成るよりは俺

 の書庫に収まって居る方がずっと増しと想うがの …

  安東家に対しては 御前の申す通りよ

  だがのう蔵治 檜山安東家の嫡男が湊安東家の娘御を娶った事で つい

 先頃両家は和解に至った其うだ 今ならば両家に祝いの品を贈りがてら誼

 を通じ直す良い機であろう  

  其れに 商人共の船は相も変わらず頻繁に往き来して居るのだ 其れに

 乗らぬ手はあるまい 」

「 … 御言葉乍ら 祝いの品を贈った位で信を措いてくれましょうや 」

「 両安東家の目下の敵は陸奥の南部家よ …

  両家の信を得る為ならば 何れの家に関わらず援を派する用意此れ有り

 と申し出る 」

「 なっ 何と 其れは余りに無謀でござりましょう 」

「 援を派すると言うても 何も大軍を送る訳では無い 御助勢仕(つかま

 つ)る程の勢で良いのだ … 但し 其の一勢 此の義総が最も信を措き

 且つ精鋭の者共で無くては成らぬ

  其の一勢の働き如何(いかん)によっては 彼の地に出張り所のひとつ望

 んだとて両安東家とて否とは申すまい 」

「 出張り所 … 一本杉館の事を言うて居られまするか 」

「 御影の者が居を構えるのだ 此れ以上相応しい場所は他に在るまい

  … のう 秋実 」

「 真に 骨を埋める覚悟で参る所存でござる 」

「 うむ 良う言うた だが今現在 一本杉館の名はおろか別名の古館(ふる

 だて)の名も鹿角四十二館(たて)の中には見当たらぬ 恐らく既に朽ちて居

 るのであろう …

  船着き場も設けねば成らぬ故 館は新たに建て直させて貰う事とするが

 費用は全て此方で賄うと申さば角も立つまい …

  問題は 目付けを置かれる事だ 蔵治の思慮は過ぎるが秋実 御前は少

 々足りぬ 其れが唯一の心配の種よ 」

「 両安東家も若狭の小浜湊に代官を置いて居るものの 武田の目付けが常

 に厳しく目を光らせて居るとの事 他領へ出張り所を設けるのであれば至

 極当然な事でござる なあに御案じ召されますな此の秋実必ずや義総様の

 御期待に応えて見せまする 」

「 彼の地を甘く見るで無い秋実 

  義総様 秋実の足りぬ思慮はさておき 一本杉館の船着き場から渟代(能

 代)の湊迄荷を運ぶに致しましても 南部家を滅ぼさぬ限り鹿角の東は其の

 脅威に晒され続けましょう

  又 南は近年共に強勢著しい戸沢と小野寺なる者らが 虎視眈々と自領

 の拡大を目論見更に其の西には 湊安東家に対し時には恭順の意を示し

 時には背反し乍ら 離合集散を繰り返す由利十二頭なる厄介な者共が割拠

 して居るものと聞き及んで居り申す …

  出張り所は渟代の湊にも置かねば成りますまい …

  新造船の護衛は我ら兄組が受け持つに致しましても 一本杉館の船着き

 場から渟代の湊迄荷を護らねば成りませぬ故 秋実の弟組が手練れ揃いと

 いえども 高々六十名程の勢では全てが手薄と成りは致しませぬか 」

「 蔵治 … 秋実ら 弟組の身を案ずるのも判らぬでは無いが 其の高々

 六十名程の勢の力量がどれ程のものであるのか 御影の当主たる御前が一

 番良く存知て居ろう 謙遜も程々にせぬと嫌みに聞こえるものぞ

  渟代の湊には能登の商人の出張り所が既に在るのだ 其処を使用人共々

 俺が借り上げる事とする 然すれば弟組を分けずに済む

  其れにだ 米代川に沿うて東から鹿角郡の尾去沢 比内郡の大葛山 檜

 山郡の太良山が肩を並べ其の三山から掘り出された鉱石のみならず 流域

 で伐り出された良木の筏が川役人の監視の下列を為し 引っ切り無しに往

 き来して居るのだ 故に荷の護衛は一本杉館の船着き場から小坂川と米代

 川が交わる錦木塚の辺り迄の凡そ二里 加えて米代川の荷は 南を流れる

 大川(雄物川)と違うて食えぬ物ばかりよ 故に不埒な者共に襲われる心配

 は極めて低い … 

  どうだ蔵治 此処迄言うてもまだ心配の種を掘り出す積もりか 」

「 … まるで … 今見て来たかの如き語り振りでござりまするな 

  そろそろ隣に控えて居る者を御呼び為されては如何でござる 」

「 ふっ 察して居ったか 相も変わらず感の良い奴よ

  待たせたな 入るが良い 」

  襖が開くと同時に 恰幅の良い四十絡みの男が平伏し

「 御久しゅうござりまする 御影の御兄弟様 」

「 やはり 其方であったか 鯨海屋の次郎兵衛殿 」

「 流石は御影の御当主蔵治様 御見通しでございましたな 」

「 次郎兵衛殿 父の葬儀以来だが 其の折りのみならず父が病に伏してか

 ら死に至る迄真に世話に成った 此の蔵治改めて礼を申す 」

「 御止め下され蔵治様 手前が現在(いま)こうして息をして居られますの

 も三年前のあの夜 寄り合いを終えた其の帰り道 商売敵が雇うた刺客に

 襲われ危うく命を落とし欠けた其の時 偶さかに通り掛かられた先代様の

 御陰にて命を取り留めたのでございます

  何時かは御恩を御返し致さねばと思い倦ねて居ります内に 先代様は病

 に倒れられ回復の祈りも虚しく 身罷られてしまわれたのでございます

  故に 此度の修理大夫様の申し出は正に渡りに船 先代様に御返し損ね

 た御恩を御返しす可く 此の杉江屋次郎兵衛 身命を賭して御仕えさせて

 頂きまする … 」

「   …   」「   …   」

「 次郎兵衛 言葉が足りぬぞ 」

「 あっ 此れは 私とした事が 申し訳ござりませぬ

  御兄弟様 此の次郎兵衛本日をもちまして 鯨海屋改め杉江屋と名乗ら

 せて頂きまする

  名を改めるに際し少々迷いは致しましたが 馬は地を駆け鷹は天翔るも

 のでござりますれば 水に浮く杉が相応しいと思い至り又 良杉を七尾の

 入り江に運び込みます事から杉江屋と名付けた次第でございます 」

「 鯨海屋はどうするのだ 」

「 弟に継がせまする 」

「 次郎兵衛殿 其れでは其れ此其商売敵に成ってしまうではないか

  其れに 所口湊の辺りは既に隙間無く建て混んで居るのですぞ 

  其の杉江屋 一体何処に建て為さる 」

「 秋実様 常民や御家の御用命は此れ迄通り鯨海屋が承りまするが 杉江

 屋の御客様は修理大夫様御一人でございます 其れに御屋敷は新たに建て

 ずとも丁度良い空き家がございましょう 」

「 空き家 … あっ 」

「 判ったか秋実 旧守護所ならば多少の手を加えるだけで事は済む

  其れに 目の前を御祓川(みそぎがわ)が所口湊迄流れて居るのだ 何を

 するにも都合が良かろう 」

「 納得でござる 」

「 新造船は都合三隻 秋実 御前が乗り込む船が長船(おさぶね)だ

  名は良杉丸 他の二船は良馬丸に良鷹丸と名付ける

  出帆は来年の春 若しくは梅雨の野分(のわき:台風)の間を目安とする

  故に次郎兵衛 其れ迄かならず三隻揃えて就船させよ 」

「 はい 仰せの通り 必ずや間に合わせて御覧に入れまする 」

「 次郎兵衛殿 俺は船に付いては度素人だ 明日から色々教えてくれ 」

「 秋実 一本杉館の出張り所は御前が差配せねば成らぬのだ 船の事は船

 人(ふなど)に任せて御前は商いの心得を伝授して貰うが良い 」

「 其れがしが … で ござりまするか 」

「 他に誰が居る 」

「 秋実様 手前共は矢を弾かぬ代わりに算盤の玉を弾いて日々戦うて居

 るのでございます 商いの掛け引きは戦も同じ 何処か通じる処が有るの

 でござりましょう … 

  檜山 湊の両安東家の御当主 何れも商人としても一流の方々でござい

 ます 秋実様 先ず心せねば成らぬ事は目に見える数字に心奪われては成

 りませぬ 目に見えぬ数字に此其真の損得が在るのでございます 故に目

 に見えぬ数字とは如何なるものか から始めさせて頂きまする 」

「 要は 数字に強い者でなければ務まらぬと言う事なのであろう …

  やれやれ 何とも荷の重い御役目じゃあ 」

「 何を申されます秋実様 荷は重い程秋実様の株は上がるのでござります

 るぞ 」

「 次郎兵衛の申す通りよ … だが秋実 長尾家とは盟を結んで居る故越

 後沖は懸念に及ばぬであろうが 問題は出羽の由利十二頭なる厄介な者共

 よ 其うであろう 次郎兵衛 」

「 はい あの者らの浜へ船を寄せようものならば法外な津料を支払わされ

 た上に 役人共も相場と掛け離れた袖の下を望んで来ます故皆 あの者ら

 の浜地を避けて素通りする様に成ったのですが 銭が入らぬ事に業を煮や

 した奴らは船を見掛けては早舟を仕立てて船を囲み 銭を払わねば船人を

 皆殺しにすると脅す迄に成ってしもうたのでございます 故に船は更に沖

 を通らねば成らぬ羽目と成り皆難渋致して居るのが現状でございます 」

「 … 安宅(あたか)や関船(せきせん)の様には出来ぬのだな 」

「 はい 新造船は飽くまで荷を運ぶ為の船でござりますれば 安宅や関船

 の様に海戦(うみいくさ)には不向きな船なのでございます

  とは申しましても 武装しては成らぬ法はござりませぬ故 武具の類い

 は十分に備えさせ垣立てに盾をずらりと並べて差し上げまする 」

「 … 次郎兵衛殿 船とは 海上で繋げられるものなのか 」

「 波の御機嫌にもよりまするが … 」

「 出来るのだな 」

「 はい     」

「 ならば良杉丸を先頭に品の字の如く繋げられる様手を加えてくれ 」

「 品の字 でござりまするか 」

「 其うだ 名付けて品の陣

  荷品を運ぶ船を護り抜く陣の名に相応しいであろう 」

「 成る程 では其の様に船大工頭に伝えて措きまする 」

「 秋実 遠回りはせず 一気に突っ切る積もりか 」

「 無論でござる兄上 

  丸に二つ引き両紋を掲げ 堂々と通って見せまする 」

「 うむ 良う言うた秋実 

  出帆の其の日迄 手の者らを船に慣れさせよ 海戦(うみいくさ)を想定

 した演練もせねば成らぬぞ 」

「 御任せを 」

「 秋実 次郎兵衛の口利きも有るのだ 恐らく檜山 湊の両安東家との交

 易再開は易かろう だが鹿角の地に小坂村に館を 出張り所を得るには易

 とは行かぬ 」

「 はっ 心得て居り申す 」

「 其此でだ 次郎兵衛の聞き及びによれば 長年争うて居た戸沢と小野寺

 が先頃和睦に至った其うだ だが其の戸沢が今度は対安東戦に向けて着々

 と軍備を整えて居るとの事 今年は無かろうが来年は事有るやも知れぬ

  故に 其の機に巡り逢うたならば何としてでも参陣果たし御助勢仕れ

  其して必ずや功を挙げ出張り所を 一本杉館を確保せよ 良いな 」

「 はっ 此の秋実に 我ら御影畠山弟組に 御任せ下され 」

  山の風が一時集まり 邪気除けに軒に吊るした風鐸が乾いた音をからか

 らと鳴らし 紫色の煙りを激しく掻き乱して後 鉄音(かなね)の余韻を微

 かに残し乍ら 風は止んだ     …

                  …

                  …

                  …

                  …

  ⦅ … んっ … はて 邪馬台無の墓は何処なのだ … ⦆

                  …

                           つづく 

 


 



 


 

 

  

 

   

 



   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十八

         兄組編   其の以

         

           杉江屋にて


             

「 迷うて居られましたか 」

  口を開く度

  良く陽に焼けた 四角い顔に貼り付く小豆の様な目の莢(さや)も薄

 く開き尊治を見詰めて返す

「 … はい …

  此れ迄 言葉では言い尽くせぬ程御世話に成って参った我ら成るも

  両御本家様の胸の内を相察しますれば やはり出張らねば成りませ

 ぬ故 … 」

「 御世話に成った義理ならば もう十分に御返し為されたではござり

 ませぬか其れにあの御二方 蒲生賢秀様並びに氏郷様は義理を盾に取

 る様な事などせぬ方々でございます

  其の御二方が御許しに成られたのであれば何の遠慮も要りますまい

  愁う事無く御出張り為され 其して必ずや生きて御戻り下され 」

「 清六殿 此度の戦 前田方の勝利は間違いござらぬ 然れど戦は戦 

  生きて戻れるかどうかなど天のみぞ知る処 故に此れ迄の事此の尊治

 改めて礼を申し上げる 」

「 おっ 御止め下され尊治様 手前が今此れ在るは実家でくすぶって居た

 私を鷹の捕り手に加えて下された貴方様の御父上 政治様の御陰なのでご

 ざいます 此れ迄の事は いえ 此れからの事も 其の御恩を直に政治様

 へ御返し出来ぬせめてもの報い 故に 手前に礼など御止め下され 」

「 清六殿 遊佐続光 盛光の親子を討てたのは其方の御陰なのだ

  其の礼だけでも言わせてくれ 」

「 手前は行き掛けの船に御乗せした迄の事 礼を言われる程の事ではご

 ざりませぬが 尊治様が其処迄申されるのであれば 其の御言葉有り難

 く頂戴致しまする 」

「 うむ 其うしてくれ …

  で … 秋実様の実の字を戴いた御方は … 何と言うて居るのだ 」

「 又 其の様な物言いを 其の御方の御言葉を聞きに参られたと言う事は

 広之進殿とは仲直り為されたのでござりまするな 」

  尊治は何の事かと首を傾(かし)げ 傾いだ口に当てた杯を一気に呷り

 開け放たれた闇色の庭へ向いた口がそろと開く

「 … 思い返せば 両御本家様が能登を逐われて後 義慶(よしのり)様の

 突然の死に奴らは直ぐ様弟の義隆様を担ぎ上げたものの 義慶様の後を追

 う様に義隆様も此の世を去られた 二人の死は奴らの手に拠るものに違い

 無く此のままでは未だ幼い義隆様の子 春王丸様の御身も危うい … 」

「 春王丸様を御救いする様 両修理太夫様の御意を蔵治様と宏実様へ御

 伝えせよと 余呉の平(ひら)様より文を託されたのでございましたな 」

「 うむ だが其処は御爺殿 既に策は練り終えて居られたがな 」

「 東の馬場で暴れしは其の帰りの事でございましたか 」

「 存知て居ったか 」

「 宏実(ひろざね)様は 何をして居るのだ我らの身を危うくする積もりか

 とかんかんでございましたが蔵治様は 尊治らしいではないかとほくそ笑

 んで居られましたぞ 」

「 好んで暴れた訳では無い 」

「 あの日は六月の末日 雨乞いを兼ねた夏越の祓えの為の馬揃えの日 」

「 ふんっ 祓えは己れらの悪行が災いと成って帰って来ぬ様願うたもので

 あろうよ 雨乞いを兼ねて居たのだちょんこと水を差してやった迄よ 」

「 はっはっはっ 尊治様も洒落る事がございましたか 

  奴らの幟旗(のぼりばた)が 目に障りましたかな 」

「       …       」

「 成る程 其れならば 万亀丸殿らを叱る訳には参りませぬなあ 」

  尊治は 其れは聞こえぬ素振りで闇色の庭を睨み 話を戻せと杯を呷る

「 そうでございましたな はいはい では 」

  清六は一度言葉を切り

  蝦蟇(がま)の如き大きな口にそぐわぬ小さな声で言葉を継ぐ

「 … では 御話し致しまする …

  宏実様が申しますには 真の裏切り者は … 義春様 … と 」

「 兄上は 何を以(もっ)て其う申して居るのだ 」

「 でのうては辻褄が合わぬ と 」

「 辻褄が … 義春様は大殿義続様の御次男ぞ 信じられぬ 」

「 奴らを恨む事より 春王丸様が居らねばと 

  己れの欲がむくりと頭をもたげた処を … 」

「 温井らに見透かされてし申たか 」

  小豆の莢(さや)がゆるりと閉じた

「 何と言う事だ … ならば兄上は 春王丸様や我が弟組の縁者の方々を

 見棄てて御城を抜けた訳では無いと 」

「 はい やはり其の辺りから御話し致さねば成りませぬな 」


  

  天正五年(1,577年) 九月十五日 十五夜の夜

  春王丸を救う可く 上杉方の総攻撃に乗じ闇に紛れ宏実と兄組の二番組

 が西の丸へ踏み込んだ のだが …

「 宏実様居りませぬ 衛士すら何処にも見当たりませぬ 」

「 ばっ 馬鹿な … 春王丸様は此の西の丸から一歩も外へは御出に成っ

 ては居らぬ筈 ええいっ探せっ探せ探せ 何としてでも探し出すのだ 」

  二番組の者共は宏実の叱咤に隈無く探すも 春王丸の姿は何処にも見当

 たらず不安と言う名の振り子の幅が大きく振れる

「 やはり 何処にも見当たりませぬ … 宏実様 … もはや 」

  二番組の組頭 佐々木茂平が焦りの眼を向ける

「 馬鹿を言うで無い茂平 」

  言うてはみたものの 身体から血の気が引いて行くのを感じずには居ら

 れぬ宏実であった

「 … 宏実様 時間(とき)がござらぬ 此処は一旦退けの指図を 」

  茂平の面に焦燥の色が浮かび 宏実の身体の中で一度引いた筈の血の気

 が凄まじい速さで逆流を開始する 

「 くうっ おのれえいっ 乱心賊子の者共があっ 無念だが 

  ええいっ者共 退けっ 退けえいっ 」

  前庭に飛び下りた宏実の眼に 庭の隅にこんもりと盛り上がる土饅頭が

 ちらりと映る 震える指を歯噛みする口へ突っ込み吹き鳴る音も何処か寂

 しく寂しき音に導かれ 菊池鈴之助率いる三番組が兄組の縁者を引き連れ

 庭の石垣から連なる楼門を抜けて行き 其れと入れ代わる様に一番組の組

 頭山野一圭が紅葉色の房髪(ふさがみ)を揺らし乍ら駆け来たり片膝付いた

「 応っ 一圭 」

  声を掛ける茂平を見上げた一圭の面に諦めの色が滲む

「 … 茂平 … 御前の背に春王丸様の姿が見当たらぬが 」

「 … 察せよ一圭 」

「 … やはり 其うであったか 」

「 やはりとはどう言う事だ 御前此其 弟組の縁者の方々は如何した 」

「 … … … 」

「 … 真逆とは思うが … 其うなのか 」

  一圭は 右の拳でがつりと地を打ち

「 宏実様 弟組の縁者の方々皆 既に … 」

「 … 殺られて居ったか 」 

「 はっ 」

  半ば呆然とする宏実の前に

「 宏実様 両組頭 奴らが来ます 」

  一圭の手の者が告げ来たる

「 誰の勢で 数は 」

「 茂平 事此処に至っては誰の勢かなどどうでもよい 数もな  

  一圭 手の者は揃うて居るな 」

「 はっ 」

「 一番組の者共で奴らを迎え撃つ 」

「 宏実様 我ら二番組も 」

「 茂平 其方ら二番組は鈴之助の三番組と共に

  縁者の方々を確と御守り致せ 」

「 しっ 然し宏実様 」

「 茂平 此処は我らに任せて行ってくれ 」

「 一圭 … 判った縁者の方々は任せてくれ 

  では 宏実様 御先に後免 」

  茂平ら二番組は切歯扼刀(せっしやくとう)し乍ら門を抜け

「 者共良く聞け 此の庭に突撃して来る者は全て入れる 投矢の棒を得手

 とする者らは屋根へ登れ 合図の笛が鳴り次第其方らは屋根の上から打っ

 て打って打ちまくれ 矢が尽きた者は我らに構わず茂平らの後を追うの

 だ 途中向こうて来る者有らば容赦はするな 

  斬って斬って斬りまくれえいっ 」

  応っと鬨の声の後に 奴ら来たるの笛が鳴る

「 来るぞ一圭  」

  はっ と応ずる間も無く無考の者らが一気に雪崩れ込んで来る

  一番組の斬撃凄まじく 

  刃を向けて来る者の腕は断ち斬られ首は刎ね飛び 

  宏実の刀撃も正に阿修羅の如く 返り血を浴びた面は怒気に満ち 

  かっと見開いた眼はぎらりと光り 刃の列がじりりと後ずさる 

  同時に一圭の口から指が鳴る 

  其れを合図に 屋根の上から次々と矢が打ち込まれ前庭は無考な者らの

 死体で埋め尽くされた

「 宏実様 退き時でござりましょう 」

「   …   」

「 宏実様 」

「 … 一圭 手の者率いて先に行け 」

「 なっ 成りませぬ 其れは成りませぬ 」

「 行けと申すに 」

「 ならば其れがしも最期迄御共致します 」

  手の者らも我も我もと声を上げる

「 … 御前ら … 一圭 殿(しんがり)は俺と御前だ 」

「 はっ 皆の者 … 行くぞ 」

  言うなり 紅葉色の房髪がゆらと揺れ

  宏実らは二番組の後を追った

     …     …     …     …

  

「 … 清六殿 … 

  兄上らが七尾の御城を抜け出た処迄は我らも既に探り知って居る 判ら

 ぬのは 落ち合う筈の気多大社(けたたいしゃ)に誰一人居らなかったのは

 何故だ 」

「 追っ手が直ぐ其処迄迫って居たのでございます 

  宏実様は気多大社に籠る事も考え為された其うですが 追っ手は上杉の

 上条政繁率いる勢凡そ五百 縁者の方々を抱えては流石に太刀打ち出来ぬ

 と 宮の浦に泊まって居た船に乗り込んだ其うにございます 」

「 追っ手は上条政繁 今は義春様の養父 … 成る程な …

  義春様の裏切り 真の様だな …

  で 兄上は何故彼の地へ向こうたのだ 」

「 いえ … 何処へ向かう積もりも無かったのでございます 

       …     …     …


「 一圭 茂平 鈴之助

  弁才船が丁度三隻在る 手前の船から組毎に乗り込め 」

「 船長(ふなおさ)には何と 」

  一圭の問いに

「 銭は払う 織田の援勢が来る迄沖に避難させてくれと 」

「 御任せを 」

  冑をがしゃりと外した紅葉色の房髪が ざぶりと波に乗る

「 相変わらず見事な泳ぎっぷりだわい のう鈴之助 」

「 真に 正に水を得た魚 あ奴 前世は海豚(いるか)か何かであろう …

  おっ もう着き居った 早いのう … 」

  背から射し込む朝陽が波のうねりに照り返り

  額に手を翳(かざ)す宏実の前に 宏実の許嫁(いいなずけ)美春が膝を折る

「 … 如何した 」

「 … 御耳を  」

  耳打ち終えた美春へ 耳打ち返す宏実の面は苦渋に満ち 握る手の平に

 血が滲み砂地を後退る美春へ向いた宏実の目蓋が静かに閉じた

「 むっ 手を振って居りまするぞ 」

  茂平の声に

「 うむ 話しは付いた様だな 

  さあ皆の者 縁者の方々を御乗せしろ 急げ 急ぐのじゃあっ 

     …     …     …     …


「 … 何とか船に乗り込む事が出来たのですが … 」

「 … 御爺殿は 其の時に … 」

「 … はい 疫病に冒されたまま回復せず 宮之浦に着いた途端眠る様に

 逝かれた其うにございます … 」

「 其れであの様に 野晒しのままであったのか 」

「 はい 戻る迄の暫しの間の事と思うて居りました宏実様に取りましては

 正に青天の霹靂 安置場が人目に付かぬ処とは申せ結果 置き去りにした

 事に変わりは無いと … 」

「 苦しみを一人で背負うて居られたか 」

「 … 尊治様 …

  宏実様の真の苦しみは 此れからなのでございます 

     …     …     …     …


  宏実らが船に乗り込むのを待って居たかの様に

  南から生暖かい風が吹いたかと思う間も無く空は曇天し

  船を操る弁才衆の顔も俄に曇り出す

  降り始めた雨は行き成り横殴りの雨へと変わり

  風を孕んだ筵帆(むしろほ)は帆柱を軋ませ

  船はゆらりと大きく揺れて傾き

  傾きが戻る度にざばりと岸から遠ざかる


「 ちっ 碇も役に立たねえ様だなあ

  おうっ 綱が切れちまわねえ内に碇を上げろ 」

  石を木で挟んだ木碇(きいかり)が ゆるゆると引き上げられて行く間

  風も雨も其の勢いを増し 帆柱は悲鳴を上げ乍ら円を描いて撓(しな)り

  飛礫(つぶて)と化した雨が容赦無く頬を打つ

「 ふっ 船長(ふなおさ) 此りゃあ直に嵐になりゃあすぜ 其れも大嵐だ

  其うなりゃあ此のぼろ船だあ 長くはもちゃあせんぜ 」

「 其んなこたあ おめえに言われんでも先刻承知の助よう

  此の船だけじゃあねえ 

  他の船も此の冬には薪に成る運命(さだめ)の船だ 

  其の間 浦内で人を乗っけて下ろすだけの楽な仕事だから引き受けたん

 だが 季節外れの此の大風 おめえの言う通り船は長くは持つめえよ 」

「 だったら何で碇を上げさせたんでやんす 」

「 奴らとは 織田の兵が来る迄船から下ろさねえと約を交わしたんだ

  今下りて下せいと言った処で奴らは下りねえだろうし 下手を打てば此

 の場で手打ちにされちまうわ

  其れに此の浦は言わずと知れた能登の一之宮気多大社前の宮之浦だ 何

 かと人目も多い 奴らを残したまま俺達だけで海へ飛び込む訳にも行くめ

 えし かと言うて此の浦で船を沈めちまっちゃあ幾らぼろ船といえども俺

 達弁才衆の沽券に関わらあ 

  其れに見てみろいあの竹に雀の織旗(のぼりばた)を ありゃあ上杉の兵

 だ 敵方に手を貸した俺達を奴らが赦す筈もあるめえし取っ捕まっちまっ

 たらおしめえだ うんともすんとも言えねえ内に首を刎ねられちまうだろ

 うよ 前門の虎に後門の狼っちゅうやつよ 」

「 あっしは前門の女陰(ほと)に後門の菊 どちらでもよろしゅうござりま

 すがのう で どうしますんで 」

「 其の前(めえ)に 風を避けやすんでちいとばかし船を走らせやすが雨が

 止む迄 中で御待ち下せいと奴らに言って来やがれ 」

  其の間も風は益々強いものと成り帆桁(ほけた)は甲高く 帆柱は鈍い音

 を立て続け波は更に大きくうねる

「 船長(ふなおさ) みんなおとなしくへいりやしたぜ 」

「 そりゃあ其うだ 船の上じゃあ俺達の言う事を聞くしかねえんだからな

  いいか良く聞け 滝崎を越えちまやあもう人目を気にするこたあねえや

  だが 柴垣の海岸迄何とか此のぼろ船を持たせるんだ 其れぐれえ俺達

 の腕を以てすれば何とか成るべえよ 」

「 なある あの辺りは浅瀬でやんす 波に乗りゃあ勝手に砂地に着いてく

 れやすな 」

「 其う言うこった

  船主の杉江様は感の良い御方だ下手な嘘は付けねえや だがな俺達は必

 死に船を操りましたと実を作って真を言えば嘘とばれる筈もねえやな 」

「 流石は船長(ふなおさ) 」

「 へっ おだてるねえ 

  おうっ 舵持ちには舵を当て乍ら舳先を北へ向けろと伝えろ 但し無理

 をしちゃあならねえとな 其して柴垣の岸に近付いたら … 」

「 扉に閂を通して舵を縛り付けるんでやんすな 」

「 判ってんじゃあねえか 万に一つでも戻って来られちまっちゃあ俺達の

 命はねえ しっかり結ばせろ 」

「 へっ へえ ですが他の船は付いて来やすかね 」

「 心配するねえ考えるこたあ同じだ ほれ あいつらも船を廻し始めたじ

 ゃあねえか皆 己れの命は惜しいもんよ 」

⦅ … 御影の衆には済まねえが悪く思わんでくれよ 命あっての物種だあ

   だがよう 此の三船で最期を迎えるなんざあ此れも運命(さだめ)っ

  てやつだな あんたらには相応しい棺桶に成るだろうよ

   重しの銭は勿体ねえが三途の川の船賃と思うてくれてやらあ

   せいぜい成仏してくんなあ … ⦆

  持衰(じさい)の風習も廃れて久しいが 船長(ふなおさ)は此の三船を御影

 一族の冥土への水先人としたのであった

  海に慣れぬ御影の者らは 船が動き出すと同時に酔いをもようす者が相

 次ぎ 傾きが増す度に酔いも増し窓は在るものの立つに立てず 然程時間

 (とき)を措かぬ間に床は吐瀉物で汚れ 船が波間を木の葉の如く舞う度に

 汚物にまみれた身体は異臭を放ち其の悪臭が新たな吐瀉を生む

  七尾の城内で悪疫に耐えて来た者らであったが 中には疫の種を宿して

 居た者が居たのか年老いた者や幼子から斃れ出し もはや泣く事の出来ぬ

 子を抱えた母親は泣き叫ぶ事しか手立てを知らず 船内は悲惨を極め宏実

 の苦悩の始まりと成った

  三日後の朝嵐は漸く収まり 扉を抉じ開けた者から表え出 出た者は甲

 板に横臥する あれ程猛威を奮って居た風は何事も無かったかの様にぴた

 りと止み 空は何処までも蒼く荒れ狂った海も静やかに碧かった

  昨日迄とは打って変わった其の景色に 皆生の実を噛み締めて天を仰ぐ

  廃船間近い三船が一船も沈む事無く揃って浮かぶ其の様は 正に奇跡の

 一語に尽き御影の者らは互いに手を取り合って喜びを分かち合い 慣れぬ

 櫂を手に船を寄せ綱を投げ合って船を繋ぎ 宏実と組頭は額を寄せて現在

 (いま)を語る 死者は三船合わせて十五名であった

  宏実は心を傷め乍らも

 「 消沈して居る暇は無し 」

  真水の有無を確かめる可く船尾へ向かう

  弁才衆が爐呂〞と呼ぶ真水を溜め措く水樽は船の最後尾に据えてあり

  三船共に樽の蓋は外れ水は半分も残って居なかったが 真水があるとい

 う事にほっと胸を撫で下ろした宏実は 船尾から屋倉の屋根迄駆け上がり

 大音声で宣った

「 皆の者 先ずは己れの身と船を浄(きよ)めねばならぬ

  着物を脱ぎ 海の水を汲み上げて身体を洗え 洗い終えた者から病者の

 身を浄(きよ)めて差し上げよ 亡骸は筵帆を切り分けてくるみ屋根の身木

 (みき:舵の軸)の前に並べ置け 其れを為して後着物を濯する者 船内を拭

 き浄める者 船の修繕を試みる者に分かれ作業に当たるのだ 」

  率先垂範 宏実は着物を脱ぎ下帯の紐も解(ほど)いて素裸と成りざぶん

 と海へ飛び込んだ 皆も宏実に倣って着物を脱ぎ次々と海へ飛び込み 泳

 げぬ者は綱で結んだ桶を海へ向けて放り込む

  最後の一人が飛び込み終えた頃 濡れ髪を後ろへ掻き上げ乍ら折れた帆

 柱へ歩み寄った宏実は 帆柱の綱を着物を干す干し綱に張り替えて再び屋

 倉の屋根へ上がり 鮪(しび)の如く並ぶ亡骸の前に膝を着き手を合わせて

 頭(こうべ)を垂れた 立ち上がり様 舵柄に凭(もた)れて腕を組み今手を合

 わせたばかりの波打つ筵帆にちらりと目を遣る

⦅ … あの不浄極まり無い船内で死者は出たものの 波に浚われた者も折れ

  た帆柱の直撃を喰ろうた者も居らず何より船は沈没を免れたのだ

   弁才の者共へ恨み言の一つでも言うて遣りたいが 閉じ込められた事

 が不幸中の幸いであったのやも知れぬ … ⦆

  今は他人(ひと)を恨む事より成さねば成らぬ事が有るのだと 己れを納

 得させる可く屋倉の上から下を覗き込む

  船蔵は 外れた甲板から入り込んだ 空と海の水で満ちて居る

  其処へ洗い流れた汚水迄もが注ぎ込み 修繕組の何人かが混水を掻き出

 して居るものの桶の数も足りず 此のままでは埒(らち)が開かぬと思い倦

 (あぐ)ねて居た処へ矍鑠(かくしゃく)たる老輩が宏実の前に片膝を着いた

「 其れがし 若い時分に秋実様に従うて船に乗り出羽の安東家へ出向いた

 事が幾度かござる 」

  と申し出た

  宏実は 此の水を掻き出す術(すべ)を知って居ろうかと問い

  老輩は 其れを告げに参りましたと面を上げた

「 帆柱の根の真後ろに爐垢辰櫃〞と申す水を吸い上げる絡繰(からく)り

 がございます 他の船には既に其の所在と扱い方を伝えて参りましたが

  宏実様 … 実は此の三船 其の折りの三船に相違ござりませぬ

  其の証しに其れがしが乗り合わせました船には良馬(りょうば)丸 隣の

 船は良鷹(りょうおう)丸 其して此の船には良杉(りょうさん)丸と墨書きさ

 れた船名額が船内に掲げられて居りました故間違いござりませぬ 」

  宏実の眉がぴくりと動くも 既に知って居たのか其れは聞こえぬそぶり

 で爐垢辰櫃〞の扱い方を訊ねて後 

「 御老輩 櫂と舵を扱えるか 」

  と続けて問い 見様見真似ではございますが と応じた老輩へ

「 ならば此れより其方が師となり 我らへ手解きして下され 」

  言うなり 宏実はざぶんと船蔵へ飛び下り 絡繰りの前に立ちぎっと握

 り締めた爐垢辰櫃〞の取っ手を引き上げては押し戻すを繰り返し 其の

 度毎にずずっ ずずっと鼻を啜(すす)るに似た音の後にぼこっ ぼこっと

 大きな泡が足下から湧いて出る

  手の者の 代わりまするの声掛けも耳に届かぬのか 何かに取り憑かれ

 た様に一心不乱に取っ手を動かし続け 全身から汗が吹き出し意識が朦朧

 とし始めた頃 漸く水は少しずつ引いて行きゆっくりと渦を巻き始めた

  其の渦の真ん中で

⦅ … やはり 俺は此の船に乗る運命(さだめ)であったのだ …

   運命とあらば 神は我らを彼の地へ導かれる御積もりなのか … ⦆

  宏実の心の叫びが過去の記憶を呼び覚まし其の記憶が脳の中で渦を巻く

  渦は更に大きく激しい渦と成り 兄組のみならず縁者の方々迄をも巻き

 込んでしまった事に 宏実の心の帆柱は今にも折れ其うな程ぎしぎしと音

 を立てて揺れて居た 

                …

                …

                …

                …

                         つづく


  







  









 

 

  


  

 

  

 

 

  



 


   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十七

        葬 送 の 御 霊 魂 玉

        そうそうの み たま だま



  何処迄が山なのか 

  何処からが空なのか

  判らぬ程の闇の中

  七尾の北西に 

  四方を小山や森に囲まれた

  赤浦と呼ばれる潟湖が在る

  南北に伸びた赤浦の潟は中程が細く括れ 

  其の括れの両岸から長さ二十間の橋が架かり

  其の橋の真ん中に源心が仁王立ちに立って居る

  手の者らに細かな指示を送り続ける二人の小頭の傍らで

  一体何が始まるのかと

  密かに心弾ませて居る万亀丸の姿があった


⦅ … あれが御霊魂玉(みたまだま) …

   ちょんこと 大き過ぎやしませんか 源心の御頭 ⦆ 

  源心が立つ橋の真下に橋脚に繋がれた小舟が浮かび 小舟の底板から立

 ち上がる棒の先には径三尺の提灯の様な物が据えられ 其の上部から突き

 出た管と紐の様な物が橋の上迄延びて居る

  其の小舟から橋と丁の字の形を為す様に 潟湖の北側へ五艘の小舟が舳

 先を橋に向けて並べられ それぞれの船尾と舳先は長さ二間の綱で結ばれ

  小舟には手の者が二人づつ乗り込み

  一人は舳先で水竿を水底へ打ち込んで舟を固定し

  一人は船尾に腰を下ろし 抱えた龕灯(がんどう)の灯りを橋の上から細

 かな指示を送り続ける背の高い小頭へ向けて居る

  小舟の長さも二間 故に橋の中央から五艘目の船尾迄の距離は二十間と

 成る 赤浦の周りを張る手の者らも皆 辺りに気を配り乍ら固唾を飲んで

 見守る中 水で濡らした大きな暗幕を橋の南側の高欄から垂らし終えた手

 の者が 背の低い小頭へ整い終えた事を告げ 続いて 

「 此ちらも良うござる 」

  背の高い小頭の言葉に 源心は諾の眼を向ける

  龕灯は整然と交互に並び闇夜の水面に映え乍ら 赤浦の潟に優しく揺蕩

 (たゆた)う小舟と共に静かに其の時を待って居る

「 良いか皆の者 試すは一度きり龕灯持ちは確と検せよ 良いな 」

「 はっ 」

  一斉に承りの声が響き 龕灯持ちは灯り口を塞いで眼を見開き 棹持ち

 は橋に向けた背中を丸めて眼を閉じ 他の者は黒色に染められた手拭いを

 目に巻き付ける

  橋の上では 背の低い小頭が鞴(ふいご)の取っ手を握り締め勢い強く風

 を送り 源心は心の内で数を数え

「 うむ 頃合いだ火を点じよ 」

  背の高い小頭が導火線に火を点じ じっ じじっじじっと微かに音を発

 し乍ら導火線は仄かに燃え進み 橋の地覆(じふく)から橋脚を伝って下へ

 と消えた 程無く かあっ と凄まじい閃光が一瞬にして放たれ 橋上に

 立つ源心らの姿が薄青白い光りに包まれ闇に浮いた

「 わっ 」 「 くっ 」 「 むおっ 」

  日頃 滅多な事では声を上げぬ者らが上げる程の光力であった

  背の低い小頭が龕灯の灯り口を開いて合図を送る 直ぐ様五艘目の小舟

 から合図が送られ続いて四艘目 少し遅れて三艘目の舟から灯りが届く

「 三艘目の舟尾迄十二間 此の距離ならば十分でござろう 」

「 甘いのう 藤八 」 

「 異論か 兄頭 」

「 逆に十二間有れば 反撃の時を与えるには十分な距離だ

  其れに今宵の様に 目に黒い手拭いを巻いたままでは闘えず龕灯も使え

 ぬ闇の中 我らは如何にして間を計れば良いのだ 」

「 そっ 其れは …

  万亀丸殿 御影の方々は如何に為されて居る 」

「 はっ 其れが … 御影の御霊魂玉はもっと小さく 私などは近付いて

 見れる物では無く 故に光りも淡く見えて居りましたので …

  此の様な激光 私 初めて目にしてござる 」

「 左様か … 御頭 」

  藤八が源心へ問い口を向けるも 源心は素知らぬ素振りで舟に乗り込ん

 で居た者らが橋の上に集まり終えるのを待ち

「 どうた 一艘目から申せ 」

「 どうだもこうだも御頭 

  導火線の燃え具合で来るとは判りましたが

  あの様な激光を諸に喰ろうては如何に其れがしとて 後ろへ仰け反るし

 か手は無く 我が目は今尚開ける事さへ儘成りませぬ 」

「 二艘目も同じでござる 」

「 三艘目はあの光りに耐えられはしましたが 

 視界は未だ覚束無しでござる 」

「 四艘目は未だ目の奥にちかちかと光りが残り

  動く事は出来ますものの 少々遅れを取るやも知れませぬ 」

「 五艘目も 同じでござる 」

「 うむ … 聞こえたか 藤七 」

「 はっ 五艘目の舟尾迄二十間

  此の距離ならば十分でござる … なれど 」

「 如何にして間を計る … か 」

「 はっ 」

「 ふむ … 藤八 困った時は 」

「 御影様 」       

「 うむ 皆御苦労であった御酒を用意して居る

  今宵は張り番の者を残しゆるりと休め

  砥草(とくさ)の茎を煎じた木賊(もくぞく)も揃えて置いて在る故 龕灯

 持ちは其れを飲むのを忘れるで無いぞ 痛む目に効く筈だ 」  

  源心の言葉に 手の者らは暗闇に笑みを隠し潟の東湖畔に佇む組屋敷へ

 漫(すず)ろと向かう

「 御頭も 今宵は御休みくだされ 」

  背の高い小頭が促すも

「 いや もう暫く此処に居る 」

「 もう 三日も寝て居らんのですぞ 」

「 藤七 藤八 御前ら此其休め 俺に付き合わんでも良い 」

「 しっ 然し御頭 今宵の張り頭は … 」

「 待て 藤八 」

  藤八の言葉を制した藤七の眼が そっと下へ動く

「 … むっ 兄頭  まっ 真逆… 」

「 恐らく … 其の真逆よ 」  

  小声で問う藤八へ藤七も小声で返し

「 其れでは 私は此れで 」

「 万亀丸殿 たまには二人に付き合うてやってくだされ 」

「 有難や御頭 我らも其う思うて居た処でござる

  否とは言わせませぬぞ万亀丸殿 のう兄頭 」

「 応よ 今宵は尼和殿との馴れ初めを聞かせてくだされ 」

「 あっ いや 私は今宵の内に戻りませぬと 」

  返す言葉も空しく 万亀丸の身体はあっと言う間に宙に浮き屋敷の中

 へと吸い込まれて行った

  三人を見送った源心は橋脚に繋がれたままの舟へ飛び乗り 舟尾に腰を

 下ろして龕灯に火を点じ 激光の残骸を眺め見る


  三日前の事である

  兼ねてから尊治に頼んで居た巻物を受け取った源心は 其れを手に深夜

 にも関わらず七尾城の作事場に向かい火術方の火薬師頭を叩き起こして居

 たのであった

「 親方 急ぎの用向きだ 頼む起きてくれ 」

  寝端を挫かれた上 行きなり巻物を突き付けられた火薬師頭は流石に仏

 頂面で迎えたものの時が時でも有り

「 此れと同じ物を作り 俺の目の前で試して見せてくれ 」

  と頼まれては

⦅  普段の源心殿とは思えぬ程の慌て振り 余程の事なのであろう ⦆

  気を取り直したものの 濃い縹色(はなだいろ)に染められた巻き物の表

 紙には 葬送の御霊魂玉(みたまだま)と墨書きされた外題の細長い紙が貼

 り付けられて居り

⦅  一体何の事やら ⦆

  やはり 御断り致そうかと億劫そうに紐を解(ほど)いて見たならば尾題

 の 光材を倍量致さば目眩ましに変ずの文字が目に入り 読むだけは読ん

 でやろうと 読み進む内に火薬師頭の居住いは正しいものとなり

  精読して後

「 源心殿 我ら爆裂を旨とする火薬玉作りを専(もっぱら)らとする者 其

 の者らに音もせず人も殺さず 只光りを発するだけの火薬玉を作れとは 

 何とも的を外れた事を申される御方じゃ 然リ乍ら 此れは面白い

  良うござる 御引き受け致しましょう 」

「 相済まぬ 此の忙しい時に引き受けてくれるとは 真に痛み入る 」

「 なあに 石動山攻めの弾薬は既に目処が立って居りますれば 御懸念に

 は及びませぬ なれど源心殿

  其れがし 石動山攻めの片が着くまで 此の場を離れる事は許されませ

 ぬ故 足りぬ用材は其ちらで御用意くだされ

  揃い次第 直ぐ様取り掛かれますよう備えて措きますが 先に竹細工師

 を一人廻して頂きますよう矢師頭に継(つな)ぎを付けてくだされ 」

「 相承知 で 他に何が必要なのだ 」

「 はい 竹は竹細工師に用意させる事として …

  紙は自前で何とか成り申そう …

  其れがしの手元に無い物と申しますと 先ずは砥糞(とぐそ)でござる

  此れは研ぎ場へ行きますれば 容易く手に入りましょう

  砥糞は 刃物の研ぎ初めには欠かせぬ物でござる故 腕の良い研ぎ師程

 砥糞は全て流さず取って措いて有る筈でござる なれど 完全に乾かして

 粉にせねば成りませぬ故 此ればかりは早めに御持ちくだされ

  後は … 鋸屑(のこくず)と鞴(ふいご)でございますが 鋸屑は此の作事

 場の一室(ひとむろ)に山と積まれ篝籠(かがりかご)に焼(く)べられるのを待

 つだけの物でござる 鞴は鍛冶屋で調達出来ましょう 」

「 以上か 」

「 はい … あっ 大事な物を忘れる処でございました 」

「 何だ 」

「 最後の仕上げに砂糖と塩を少々 … 」

  真事(まじ)か 想いつつも組屋敷へ取って返した源心は 手透きの者を

 集めて夜明け前には全て揃える事が出来 其の夕早くも仕上がったとの報

 せが入る

「 もう出来たのか 」

「 はい 用材さへ揃えば 存外容易いものでございましたな

  なれど源心殿 此の巻き物を信じて居なかった訳ではござりませぬが 

 真逆 砥糞や鋸屑が光り玉に化け様とは正に目から鱗 真に良い物を教え

 て頂きました 源心殿此の巻き物の主様に宜しく御伝えくだされ

  出来得る事ならば 一度御会いして見とうござると 」

「 うむ 今は何処の何方とも申せぬが時が来れば必ず会わせて遣わす 」

  はいと頭(こうべ)を垂れる火薬師頭へ

「 親方 整いました 」

  弟子が告げ

「 左様か さあっ 源心殿 参りましょう 」

  案内された部屋の壁板には防火と遮蔽の為の暗幕が張られ 弟子達が其

 の暗幕へ向けて口に含んだ水を霧状に吹き掛けて居る

  土間の中央に突き立つ細竹の上に径六寸 蹴鞠(けまり)程の丸い玉が乗

 り玉の下部から導火線が螺旋(らせん)に竹を伝わり 一つだけ灯りの点(と

 も)された燭台の下迄這って居た

「 源心殿 先ずは巻き物の外題通り

  葬送の御霊魂玉を再現致しまする … 始めよ 」

「 えっ 親方 初手は … 」

「 判って居る だが源心殿には時間が無いのだ

  其れに 元を素の目で見て貰わねば意味が無かろう 」

「 しっ 然し親方 此の距離では 」

「 構わぬ 遣ってくれ 」

「 … はっ では 源心様 御覚悟を 」

  火薬師頭と弟子達は黒色の手拭いを目に巻き付け 源心は弟子の一人に

 促され部屋の隅迄退き 他の弟子が鞴の取っ手を握り締めゆっくりと風を

 送り出す 鞴の送風口から伸びて居る管の先は土間に潜り込んで居る

  どうやら管は 土中を伝い細竹に繋がって居る様である

「 … 点ゼよ 」

  火薬師頭の声を合図に 別の弟子が燭台の灯りから付け木に火を移して

 導火線に点じ 其の線火の灯りに集中す可く燭台の灯りは吹き消され 仄

 かな炎がじっ じじっ じじっ と音を立て乍ら まるで産まれたばかり

 の龍の子が其の身に余る宝珠を得ようとするが如く細竹を燃え昇り 炎の

 鱗が宝珠に吸い込まれた刹那 かっ と閃光が煌めき源心の意に反し片方

 しかない目が思わず閉じた

「 如何でございます 源心殿 」

「 うむ … 想うて居た以上の光り様であった 」

「 左様でござりましょう 」

  手拭いを解いて向ける火薬師頭の面に笑みが浮かぶ

「 … 未だ 目が眩んで居るは 」

「 おい 手を貸して差し上げよ 」

  弟子に手を引かれ部屋に戻った源心の手に 濡れた手拭いが手渡され

「 目は潰れぬであろうのう 」

「 ははっ 御心配には及びませぬ

  暫くは目の奥がちかちかと痛みましょうが 必ず元に戻りまする

  なれど念の為 此れを御飲みくだされ 」

「 何だ 」

「 はい 砥草(とくさ)の茎を煎じた木賊(もくぞく)でござる

  痛めた目に良く効く薬でございます

  我ら火薬師には欠かせぬ物ではございますが 源心殿には御酒の方が宜

 しいですかな 」

「 両方くれ 」

「 ははは 流石は源心殿 此れ 源心殿へ御酒を 」

  畏まりましたと弟子らは奥へと消え

「 親方 後学の為に教えてくれ あの光り玉 何故(なにゆえ)音もせず 

 光りだけを発する事が出来るのだ 」

「 はい先ずは光材でござる あの光り玉の光材は砥糞と火打ち石を粉にし

 た物と 篩(ふるい)に掛けた鋸屑に硫黄の粉を塗(まぶ)した物でござる 」

「 砂糖と塩を忘れて居るぞ 」

「 はは 此れは一本取られましたな 勿論 何れも臼にて挽き粉にしてご

 ざいます 粉にする事で空気を送った際 玉内に満遍なく行き渡らせる事

 が出来ますので 」

「 うむ … で 」

「 はい 研ぎ師らが用います材種には決まりは無く 其れ其れが此れはと

 思うた石を用いるものでござる 故に 石の種類は多岐に渡り砥糞の中に

 は研がれた刃物の鉄粉(かなこ)も混じりまする

  鋸屑も檜 杉 松などが主でございますが此れらは付け木に用いられる

 程火の着きやすい木材でござる 火打ち石に付きましても 今其れがしの

 許にございます燧石(すいせき) 玉髄(ぎょくずい) 玻璃(はり) あじ(黒曜

 石)と全て使うて居ります故 鋸屑に硫黄の粉を塗す事で発火の作用が急速

 に促され 多岐に渡る材種があの様な光り様をするのでござりましょう 

  更に 其処の焙烙玉(ほうろくだま)を御覧あれ 」

「 … 此れがどうした 」

「 はい 瀬戸内の水軍が得手とする焙烙玉も 我らが得手とする爆裂玉も

 仕組みは同じでござる 焙烙玉は陶器を用い爆裂玉は紙ではございますが

 膠(にかわ)にて幾重にも重ね合わせた物でござりますれば 焙烙玉も爆裂

 玉も共に頑強な殻を持つが故に爆発の威力も増すのでござる あの光り玉

 の殻も紙で出来て居りまするが 」

「 俺には 薄紙に見えたが 」

「 はい あの紙は薬師(くすし)や我ら火薬師が扱いし薬包紙でござる

  此の薬包紙成る物 一度火が着きますれば あっと言う間も無く燃え尽

 きてしまう物でござる … つまり 」

「 … 爆発の際 圧が掛からぬ 」

「 左様 堅固な城門を破るには 其れなりの道具を必要とし其れなりの音

 がするものでござる なれど 其処の軒に掛かりし涼廉ならば … 」

「 腕押し処か指さへ要らぬ 」

「 はい 故に光りを発すると共に ぼぉっ と燃え尽きる音を残すだけな

 のでござる 」

「 … 成る程 … 得心が行った 」

「 後は送る風の加減でござる

  強すぎても弱すぎても成りませぬ あの光り玉の成否は実は風の加減

 と言うても過言ではござりますまい 」

「 うむ 良う解った 」

「 其れで 源心殿 大きさは如何程 其して其の数は 」

「 うむ 径三尺 数は試しを含めて九つ 出来るか 」

「 八卦の陣ならぬ八光の陣でござりまするな 御任せくださりませ 

  其れ其れ 

  天 地 風 雲 龍 虎 鳥 蛇 と印し 仕上げて措きまする 」


  源心は龕灯の灯りを吹き消し 舟尾の腰掛けを枕にごろりと横になる

⦅ … 天 地 風 雲 龍 虎 鳥 蛇 …

   餓鬼の頃 左右組と組んで良う遊んだは …

   さて 後はどう誘(おび)き寄せるか なのだが … 其の前に ⦆

「 … 善 」

     …     …     …     …     …

「 居るのは判って居る 」

  舟尾の左側で ちゃぷりと音がし

「 … 久しゅうござる 源兄(げんにい) 」

「 元気其うだな 」

「 源兄も 」

「 片目の世界に漸く慣れた処よ 」

「 … … … 」

「 で 何用だ 」

「 話を聞いてくれるので 」

「 ふっ … 

  我らの張りを掻い潜り忍び入った事への褒美よ

  聞くだけは聞いてやる 」

「 忝(かたじけ)ない 実は ─ ─ ─

  善行は舷側に頭を当て 闇の水面へ向けて語り出し 暫しの後

  ─ ─ ─ どうだ源兄 俺の話に乗ってくれるか 」

「 … 其処な御方も善と同じ想いか 」

「 なっ 何を言う源兄 俺の外には誰も … 」

「 流石は伊賀倫組の頭領 服部源心殿でござる 」

  ざっと水が持ち上がり 源心が乗る小舟の舳先に黒い影が丸く乗り

「 御初に御目に掛かる

  其れがし 今は無き甲斐は武田の傍人組の頭領 ─

「 赤沼の黒丸 又の名を河童の黒太郎 … 殿 」

「 其れがしの又の名迄存知て居られるとは … 光栄でござる 」

「 ふっ 蛇の道は蛇 と云うやつよ 」

「 黒丸 来るなと言うた筈だぞ 」

「 善行殿 先程の光り玉を目にした以上 此の御方は我らを生きて返しは

 しますまい

  今彼方様に死なれては其れがし 遊佐様に顔向け出来ませぬ故

  其れがしが盾と成り申す さあ 今の内に 」

「 いや まだだ

  源兄 応えてくれ 俺の話に乗るのか 乗らぬのか 」

「 乗る訳が無かろう 」

  東の岸から声が上がる

「 其の声は 藤八 」

  西の岸からも

「 女御は騙せても 我らを誑かすには至難の業ぞ … 善 」

「 とっ 藤七 … おっ 御前ら 何時の間 ─

  善行の言葉が終わらぬ内に 東西から十字が飛ぶ

  がっ

  きっ

  東の十字は黒丸が

  西の十字を善行が叩き落とすも 藤七の肩越しから矢が走る

「 善行殿っ 」

  声より先に善行の前へ跳んだ黒丸の背中に どかりと矢が突き刺さる

「 くっ 黒丸っ 」

  黒丸は其のまま善行を抱き抱え ざぶりと湖(うみ)へ飛び込み

  続いて飛び込もうとする二人の小頭へ

「 待て 奴の噂は聞いて居ろう 水の中では敵無しぞ 」

「 俺達 二人掛かりでも … 」

「 藤八の小頭 私(わたくし)も居りまする 」

「 応よ御頭 奴は万亀丸殿の矢を背中に諸に喰ろうたのだ

  善が居ろうとも もはや我らの相手ではござらぬ 」

「 兄頭の申す通り 逃げるとすれば海に向かう筈

  松百(まっとう)の水門を閉じれば袋の鼠でござる 」

「 応よ 万亀丸殿は一足先に松百の水門で待ち設けて下され

  俺が水に入る 藤八 御前は岸に沿うて来い 」

「 待てと申すに藤七

  奴は矢を喰ろうたが 恐らく毛程も感じては居らぬ 」

「 私の投矢を毛程も感じぬとは 何故でございます 」

「 随分と前の事だが 奴ら傍人組と殺り合うた組頭から聞いた事がある

  奴の背中は盾の様だと

  幾ら十字を打ち込んでも けろりとして居った其うだ 」

「 故に盾になると 例えでは無く真の事でしたか 」   

「 なれど あの光り玉を見られてし申たのですぞ 」

  向こう岸から橋を掛け渡って来た藤七が問う

「 構わぬ 」

「 かっ 構わぬと … 」

「 … 御頭は 善の話に乗る御積もりで 」

「 判らぬ … が 真で有るならば 」

「 悪い話ではござらぬ … のう兄頭 」

「 … 真で有るならば … だがな なれど 」

  藤七の目が万亀丸へちらと向く

「 其れよ 尊治殿が遊佐を討つ意は変わらぬ 」

「 如何為されます 」

「 うむ … 困った時は 」

「 御影様 」

「 御頭も藤八も其の掛け合いは止めて下され 」

「 ならば兄頭 外に手は 」

「 無い 」

「 決まりだな さあ 万亀丸殿 飲み直しと致しまするか 」

  言いつつ 源心は舟を伝って岸へ上がり

「 あっ いや 私は … 」

「 其れがしにも尼和殿との馴れ初めを聞かせて下され 」

「 俺らも参ろう 兄頭 」

「 おっと 藤八 御前は役目に戻れ 」

「 へっ … 」

「 今宵の張り頭は御前であろう 」

「 其んな殺生な 」

「 文を垂れるな 」

「 へえい … 処で御頭 善の兄貴には向後どう継ぎを付けるので 」

「 付けんで良い 其れが継ぎと成る

  だが 火薬師頭への継ぎは忘れるでない 」

「 はっ はあ … 」

「 早く行け 早く戻って来ねば御酒は無う成るぞ 」

「 其れを早く言うて下され 」

  言うが早いか 藤八の足が地を蹴った


「 親方 つい今しがた倫組の小頭様が参られ

  上々であったとの継ぎがございました 」

「 ふむ … 左様か … 」

「 親方 此の三日 何やら御気分が優れぬ御様子

  何処か御身体の具合いが悪いのではござりませぬのか 」

「 はっはっ 報告がてら様子を見に参ったか 」

「 はっ 皆心配して居りまする 」

「 はっはっはっ 其れば済まぬ事をしたな

  心配は無用だ ちいと想う事があってな 」

「 … 想う事 … 何でございます 」

「 戯れ言と思うて聞いてくれ

  もし仮にだ 此の世から戦が無くなり天下泰平の世と成ったならば

  儂は直ぐ様御役を辞し 御前に跡を譲る積もりだ 」

「 なっ 何を申されます親方 」

「 まあ聞け 御前は弟子頭に恥じぬ腕前と成った

  もはや儂が教える事も無い程にのう 」

「 御誉め頂き真に嬉しゅうございますが 御辞め為された其の後は何を

 為される御積もりで 」

「 うむ 御前も目にしたであろう あの激しくも美しい光りの様を 」

「 はい 私にはあの光り玉 遠きにありて見ましても十分美しく闇に映え

 るものと想われますが 」

「 死者を御見送りする際の御霊魂玉なのだ本来其の様なもの なのであろ

 うよ 故に音を出しては成らぬと言うのも解らぬではないが われらにし

 てみれば火薬玉は音がするのが当たり前故 音がせぬのは気に入らぬ

  なれど 人を殺さぬと言う処は気に入った 御霊魂玉と言う名もな 」

「 はい 実は私も同じ事を想うて居りました 」

「 真か … 我らは此れ迄 何人の人を傷付け殺して来た事か …

  己れの手を汚さず他人の手を介しての事だが だから此其 我らの逝き

 先は地獄と決まって居ろうが 地獄へ行く前に一度で良いのだ人を傷付け

 ずましてや殺しもせず 愉しませる火術を披露してみたいのだ 」

「 其う言う事でございましたか

  ならば親方 先ほどの御話しは御断りさせて頂きまする 」

「 何故だ 前田様の火薬師頭では不服か 」

「 いえ 此の世が泰平の世と成るのであれば 爆裂玉も必要の無い物と成

 りましょう 然すれば私だけでなく他の者らも職に溢れてしまいまする

  親方 人を愉しませる火術など 我ら弟子には未知のものでござります

 れば 我ら又一から教えを請わねば成りませぬ故 其の折りが参りました

 ならば 我らを再び弟子として御側に置いてくださりませ 」

「 はっはっはっ 何時の間にやら口迄達者に成り居って

  ならば 何時職に溢れても良い様にせねば成らぬな 」

「 はい 」

「 のう弟子頭 ちいと試したいものがあるのだが 手伝うてくれるか 」

「 勿論でございます 既に何やら御考えが御有りなのですね 」

「 うむ … 朧気乍らな 」

「 其れはどの様な 」

「 大輪じゃ 」

「 … 大輪 」

「 其うじゃ 大輪じゃ 

  戦場に於いては火花は散るだけよ

  だが 何時の日か其の火花が散り終えた時

  命を散らした全ての者達の為に御霊魂を弔う可く

  盆を迎える夏の夜空に大輪の華を咲かせてやりたいのじゃ 」

「 やりましょう親方 泰平の夜空に 大輪の火の華を

  我らの手で咲かせてみせましょう 」

                         つづく

  

  


   

  




 




   


  


   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十六 

         茂菜 の 苛 立 ち

         もな の いらだ ち 




  男の背中を掻きむしる女御の手が思わず止まる

「 まっ 真でござりまするか塩沢様

  真に 真に私(わたくし)の様な女御を貴方様の妻に 」

「 真だ 俺は嘘など付かぬ 」

「 嗚呼 嬉しゅうござりまする …

  なれど 私を抜くには其れなりの銭を必要と致しまする

  其の様な御負担 掛けられませぬ

  茂菜は 塩沢様の其の御気持ちだけで十分でございます 」

  男の腹の下で身を捩(よじ)り 顔を横へ背けた拍子に目から目へ涙が

 ほろりと伝わり落ちた

「 はっはっはっ 銭の事ならば心配せずに良い 全て俺に任せ措け

  … 何だ茂菜 泣いて居るのか 」

「 戦で父も母も失い 頼る縁者も居らず何の取り柄も無い儘 天涯孤独

 と成りし身の上なれば 生きて行く為に致し方無く遊女(あそびめ)に此

 の身をやつして参りました私でございます …

  其の様な私を … 嗚呼 何を申し上げて良いのやら 

  言葉もござりませぬ 」

  左の腕で頬に杖付き 茂菜の面を覗き見る男の右手が桜貝の如き乳首

 をそっと摘まむ

「 んっ … さっ 然り乍ら 戦は近うござりませぬのか

  私は 貴方様の御身が心配で堪りませぬ … 

  つっ ついっ 想うては成らぬ事を想うてしまいまする … 

  わっ 私はもう一人は嫌でござりまする … うっ んっ 」

「 はっはっはっ 其方を迎える前に 先ずは其の心配性を直す事から始

 めねばならぬな 

  案ずるな 俺は死なぬ 其の様に出来て居るのだ 故に其方を一人に

 などさせぬ 其の日が来る迄楽しみに待って居れ 」

「 はい 貴方様を信じて待つ事と致しまする 」

  枕元の鉄瓶へ伸ばそうとする茂菜の手を封じた男は 其の儘ごろりと

 仰向けになり

「 御酒はもう良い さあ参れ 」

「 … あい … 」

  茂菜は男の身体に跨がり様眼を瞑り 目蓋の裏側に違う男の顔を想い

 浮かべ乍ら 徐に細身の腰を揺らし始めた … … …

 

「 御呼びでございますか 左近様 」

「 うむ 茂菜殿 其方らに一仕事して貰わねば成らぬ 」

「 まあ やっと左近様の御役に立てる日が参りましたか

  嬉しゅうございますが 其れは取りも直さず左近様の夜伽の御相手が

 叶わぬと言う事に他なりませぬ 茂菜には其れが寂しゅうございます 」

「 ふっ 何を萎らしい事を

  俺に隙が有れば 寝首を掻く積もりで居ったろうに 」

「 ほほっ 確かに

  我らを 巫女(ふじょ)組のみならず 傍人組共々救うて下された其の

 事由が判らぬ内は信を措く事など出来ませぬ故 」

「 今は信を措いて居ると申すか 」

「 ほほっ 左近様の御首(みしるし)が未だ其の御身体から離れては居りま

 せぬ 其れが何よりの証しでございます 」

「 ふっ 言い居るのう 茂菜殿 」

「 左近様 此れからは茂菜 と御呼び下され

  私はもはや貴方様のものでございます故に 何の遠慮も要りませぬ

  貴方様の命とあらば 何時でも何方様成りとも 其の首掻いて御覧に入

 れまする 」

「 うむ 良う言うてくれた 委細は追って報せるが 或男を誑かし骨抜き

 にしてくれ 首を掻くのは後の事 どうだ其方には容易いものであろう」

「 … 左近様 思い違いを為されては困りまする …

  我ら 銭で身を売る遊女(あそびめ)に非ず故に 如何に御役目とは申せ

  いえ 御役目であるから此其 心を偽り好いても居らぬ男に身を委ね偽

 りの伽を重ねます事存外苦衷なものなのでございます

  好いた御方と身体のみならず 心と心が真に結び付く事で 己れの命に

 張りが生まれ 其の御方の真を支えに 初めて容易いものと成るのでござ

 います 」

「 武田勝頼殿とは 真のものであったのだな 」

「 はい 互いに嘘偽りの無いものでございました 」

「 茂菜 其方に対する俺の心に嘘偽りは無い

  此の俺が此れ程愛惜しいと想うたのは初めての事だ 

  尤も 人を欺き慣れた俺の言葉など信じられぬであろうがな 」

「 同じ事を言わせて下されますな 信じて居りまする …

  なれど左近様 亜由様は未だ我らに … と申しますより 私に信を措

 いては居られぬ御様子 … 

  別段 何をされ言われた訳ではござりませぬが

  茂菜には其れが少々気掛かりでございます 」

「 ふっ 気にせんで良い あの女御は其方の美しさに妬いて居るのだ 

  只 其れだけの事よ 」

「 妬いて居るのは寧ろ私の方でございます

  あの様に美しい御方 甲斐には居りませんでしたので … 」

「 ふっ 又其の様な 兎に角頼んだぞ 茂菜 」

「 はい 此の茂菜 必ずや貴方様の意に沿うてみせまする … 」


  茂菜 姓は望月を称し今は亡き 甲斐武田の巫女(ふじょ)組の頭領

  望月千代女(ちよめ)の娘である

  三十路はとうに過ぎて居る筈なのだが十は若く見え 其の面立ち

 は清楚で気品に満ち 四肢は細いが着物に隠れた胸と尻は良く肉付

 き男の情感を掻き乱す 正に官能の美体其の物の持ち主であり 其

 の面からは想像にし難い程の性(さが)にして 其のしなやかな肢体

 で絡まれ性技の限りを尽くされた男で 此の女御の虜に成らぬ者は

 一人として居なかった


⦅ … あの亜由と言う女御の眼 …

   私(わたくし)は あの女御と同じ眼をした女御を知って居る ⦆

  亜由と初めて会うた時 茂菜は其う感じた

  笑顔なれど 其の眼は笑うて居らぬ茂菜の母 

  千代女と同じ眼をして居る女御だと

  物心付いた頃 初めて母の其の眼を見た茂菜の幼い心は一度壊れた

  或る夜 茂菜は母が祖父と交(まぐ)わう場を垣間見た

  見せ付けられた と言う可きか

  其の様は正に畜生の交わりであり 獣の咆哮が茂菜の耳を襲い祖父の

 肩越しに茂菜を見詰める 笑顔なれど眼の笑うて居らぬ母 千代女の姿

 が其処に在った

  幼い乍らも 男と女の其の行いが何を意味するものなのかを既に知っ

 て居た茂菜は

⦅ … あたしは 本当に父様の娘であり爺様の孫なのであろうか …

 … 其れとも 爺様の娘なのか … 

   爺様の娘と言うのであれば あたしを産んで下された母様とは母

  娘でありながら姉妹なのであろうか … ⦆

  大人でさえ導けぬ答えを 茂菜の小さな脳は必死に導き出そうとし

 導けぬまま 茂菜は魔の夜を迎えてしまうのである 

  千代女から事前に報されて居たのであろう

  祖父は 茂菜の初花を待って居たかの様に其の夜 茂菜の寝所に忍び入

 り無残にも幼い花を朱に染めて散らし 崩れ掛けて居た茂菜の心は完全に

 壊れてしまったのであった

  壊れた心を抱えたまま一年が過ぎようとした頃 祖父は何時もの様に未

 だ未熟な茂菜の身体を弄び 足を拡げて押し入った

  未熟乍らも美しさは既に表へ現れて居り 其の美しくも未熟な身体は

 小さく仰け反り 両手は布団の両端を固く握り締めて居る 

  己れのみすぼらしい胸を 膨らみ始めた茂菜の乳房へ押し擦る祖父は

 枯れ枝の様な細腕で茂菜の細首を抱え乍ら其の時を迎えようとして居た

  祖父の其の時に合わせるかの様に 茂菜の括れた腰から伸びる柳の枝に

 も似たしなやかな足が枯れ木に絡み付き 枯れ木と柳が一本に成ったと同

 時に 茂菜の可憐な唇から初めて女の声が上がる

  其の一連の流れが祖父には堪らぬ喜びであったのか

「 おっ おおうっ 茂菜っ 」

  枯れ木の洞(うろ)から歓喜の声が漏れ出 其の時を迎える可く枯れ枝を

 茂菜の脇の下で突っ張り 筋張る顎が上を向いた刹那

  茂菜の瞳が煌と光り 布団の下に隠し置いた二枚の剃刀を素早く引き抜

 き 祖父の顎の下で交差させ一気に掻き切った

  全身朱に染まった茂菜は 恍惚の面を残したまま命と共に果てたもう一

 つの祖父を切り落とし母千代女の寝所へと向かう

  部屋に近付くにつれ 又もや獣の咆哮が茂菜の耳をつんざき 其処には

 兄六郎の鍛え抜かれた身体に股がり 夢現の情気を湛え乍ら狂喜に湯揺す

 る母の姿があった

  無言でもう一つの祖父を 母目掛けて投げ付けた茂菜の口の端が微かに

 横へ伸びるも 自覚無き 笑顔なれど眼の笑うて居らぬ茂菜が其処に居た


⦅ … 私(わたくし)は 畜生の家に畜生の子として産まれ 畜生共に育てら

   れた …

    私の様な生き物は 此の世に産まれて来ては成らぬ生き物なのだ

    あの女御が 畜生の行いをして居るのであれば 赦さぬ

    其の時は 私があの女御を逝かせて遣る ⦆

「 … あっ はあうっ … もっ もう いっ 逝きまするうっ … 」

「 俺もだ茂菜 共に果てようぞっ むっむおうっ むおおうっ 」

  男は 茂菜の膨らみへ突っ伏して果てた

  男の背中を優しく撫でて居た茂菜の手が 男の掻き出す鼾と共にぴたり

 と止まり 豚の如き男の身体をごろりと横へ追いやった其の手で 己れの

 乳房を揉みながら右手の中指を秘壺へ誘(いざな)い 親指が膨らんだまま

 の実(さね)を擦り出す

「 … んっ んんっ 逝かぬ … まだ逝けぬ … くっ …

  何時もの事なれど

  私の身体に火を着けたまま 己れだけ逝き居る此の豚め 

  幾ら何でも早すぎる

  此れでは 蛇の生殺しではないか

  … ふっ んっ … 此の私が 自らを慰めねばならぬとは 

  … くっ あと少し もう少し … 逝かぬ 逝けぬ … 嗚呼 …

  だっ 誰か 茂菜を 茂菜を逝かせてっ … 」

  身 悶え 喘ぐ茂菜が 颯(さっ)と蚊帳を抜けるなり

  燭台の灯りを ふっと吹き消し

「 誰じゃ 」

  闇の庭を睨み付ける

「 名無しでござる 」

「 御前か 何用じゃ 」

  言いつつ 一糸纏わぬまま 濡れ縁へ腰を掛けた茂菜は 立てた右膝

 を揺らし乍ら両手を後ろへ付きつつ 笑うて居らぬ眼を向ける

「 善行殿が申されるには 用済みと成れば左近は巫女(ふじょ)組を始末す

 る積もりで居ると 」

「 であろうな 」

「 故に 其の前に 我が傍人組は巫女組を連れて山を抜けよ と 」

「 其れは成らぬ 其の間 誰が遊佐様を御守り致すのじゃ 」

「 半開きが居りまする 」

「 あの男 信用成らぬ 」

「 直ぐ戻ります故 」

「 成らぬ 我ら巫女組は自力で山を抜ける故 傍人組は我らに構わず全力

 で遊佐様を御守り致せ

  茂菜が其う申して居ったと 善行殿へ伝えよ

  黒丸にもじゃぞ 良いな 」

  其の善行殿がと 口に出掛けたものの御頭が付いて居るのだと思い直し

「 … 抜けられますか 」

「 戦が始まり居れば 誰も遊女(あそびめ)などに構うては居れまい 」

「 左右組の事を言うて居るのでござる 」

「 ほほっ あの男の事じゃ 我らを殺るのに 手の者は使わぬ 」

「 …   …   … 」

「 判らぬか 」

「 はっ 」

「 申し訳ごさらぬ 

  あの者ら どうやら前田の息の掛かった遊女共の様でござる

  と 左近に告げられたならば御前はどう致す 」

「 はっ 遊ぶだけ遊び其の日が来ましたならば … 」

「 其う言う事じゃ 」

「 …   …   … 」

「 何じゃ まだ府に落ちぬのか 」

「 其の日とは つまり 此奴らが山を抜ける時 」

「 其うじゃと言うておろう 」

「 山を抜けるのは 戦が始まる直前でなければ成らぬ筈 」

「 其うじゃ 」

「 前田が仕掛けて来ねば 抜けられませぬ 」

「 と言う事は 」

「 此奴らに 荷駄組に探りを入れても何の意味も無し

  只 前田を張って居れば其れで良うござる 」

「 意味も無いのに 何故左近は我らを充てごうたと 」

「 はっ 」

「 名無し 御前にしては良う気付いたな

  其方ら傍人組を駒として使う為じゃ 捨て駒としてな 」

「 右近組一組で倫組に当たらせるのは分が悪い 

  故に 我らに合力せよと 」

「 端から其の積もりで居た訳では無かろうがな …

  左近と倫組の頭領とは因縁浅からぬ仲と伝え聞く

  左右組が上杉の手下(てか)で居る以上 何れ倫組と当たるは此れ明白

  なれど 倫組と正面切ってやり合うても 現在(いま)の左右組では勝て

 ぬ 其う踏んで居た左近の眼の前に我らが居た … 」

「 成る程 其れで我らを … 」

「 其う言う事じゃ 

  なれど 初手は傍人組と左右組とで当たる積もりが 」

「 銭を奪う計画に変わり 」

「 我ら傍人組と右近組は 左近組が銭を奪う迄の時間稼ぎの捨て駒 」

「 其う言う事じゃ 納得か 」

「 はっ 此れですっきり致しました 心置き無く裏切れます故 」

「 ほほ 私もじゃ 」

「 … 其の豚も 茂菜様を裏切りましょうや 」

「 当たり前じゃ

  愛惜しいと想うてくれて居るのは真の様じゃがな

  私を連れて行けば荷駄頭と謂えども 此の豚の命は無い

  其れが判らぬ程此の豚も馬鹿では無い …

  何じゃ名無し 妬いて居るのか 」

「 いっ いえ … 妬いてなど … 」

「 嘘を申すな 其う面に書いてある 」

「 まっ 真逆 」

  思わず面を上げた名無しの面前に 茂菜の美しい脚がすたりと立ち

  名無しの眼前で茂菜の茂みがさわりと揺れる

「 名無し

  あの豚は 一度眠りに付いたならば朝迄起きて来ぬ豚じゃ

  故に … のう 名無し

  朝迄 … 朝迄 嗚呼 …     」

                         つづく


     


   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十五 

            夢 

            むこく 




  石動山から七尾を跨いだ北西の地に

  能州に於いては石動山の三百六十坊に次ぐ霊山御前山別名

  赤蔵山が存る

  社領五里四方と広大な社域を有して居た御前山であったが

  五年前戦禍に巻き込まれ灰塵に帰した

  其の御前山の土に埋もれ僅かに顔を覗かせて居る石段を踏みしめ乍ら

  亀山社跡へと続く裏参道を登り続ける男が暗闇へ向けて


「 俺だ 善行だ 」

「 鳥居の辺りで暫し御待ち下され 」

「 取り込み中か 」

「 はっ 」

「 御前らに夜伽の番をさせるとは … 済まぬな 」

「 いえ 此れも大事な御役目でござる 」

「 気取られては居らぬであろうな 」

「 我らに夜伽の番をさせて居るのでござる 御懸念には及びませぬ 」

「 済まぬ事がもう一つある 」

「 既に承知で居り申す 」

「 であろうな … 皆に引き上げよと継ぎを付けてくれ 」

「 ほおうっ あの男 少しは気を遣う事を覚えましたか 」

「 御前達の為では無い 己れの為だ 」

「 はっはっはっ でしょうな 何れにせよ良うござる

  此れ以上手の者を失うては組の体を為しませぬので … 名無し 」

  枝がざわと揺れたかと思う間も無く 影が一つ土に埋もれた石段を駆

 け下りて行った

「 他には 」

「 左近組は巫女(ふじょ)組と共に眉丈山(びじょうざん)を引き払い石動山

 へ移る故 右近組は其れと入れ替われとの事だ 」

「 ほおうっ 其のまま墓穴に閉じ込める積もりですかな 」

「 其れで済むなら 越した事は無いがな 」

「 我らは 」

「 命ある迄潜んで居れと … 言う迄も無いが 」

「 其の間 御嬢を守り通す可し 」

「 うむ 遊佐様から此の御山を教えて頂いた代わりにあの女御を御守り

 致すと約束したのだ 約を違えては成らぬでな 」

「 成れど善行殿 我らが去りし後はあの女御 如何に相成るので 」 

「 然(さ)ては黒丸 あの女御に情が移ったか 」

「 はっはっ やも知れませぬな …

  遊佐様からは 気の触れた女御としか伝えられて居りませぬが 何が在

 ったのかは首の刺し傷の痕から凡そ察しは付きますものの 普段は童女

 の様に無邪気な笑顔を絶やさぬ女御なれど 時折りまるで観音菩薩様の如

 く清白で真に慈悲深い面を見せてくれるのでござる

  御陰で 御嬢の傍に居るだけで我らの穢れた心も浄化されて行く様で 

  別れと成りますれば ちと寂しいものでござる 」

「 其う成らぬ為にも黒丸 其方ら傍人組があの御方を 遊佐様を死なせて

 は成らぬ 」

「 では遊佐様は 真に四箇院を 」

「 と迄は行かぬ迄も せめて身寄りの無い者や老いた者らを収する悲田院

 の様なものを創りたい とは申されて居るのだ 」

「 御嬢の様な 」

「 うむ と言うより あの女御の為 やも知れぬな 」

「 御嬢の為ならば 」

  御任せ下されと 黒丸の大きな顎が小さく頷く

「 黒丸 奴は 御影は出来る あの男に 左近めに傷を負わせた程の男だ

  若いからと言うて侮るで無い 」

「 既に承知でござる が 奴は 」

「 左近めは 俺が殺る 」

「 御一人で … 」

「 其れは 扨措いてくれ 其れより

  済まぬ次いでにもう一つ頼みを聞いてくれ 」

「 何なりと 」

「 七尾の杉江屋を存知て居るか 」

「 船宿を兼ねた船問屋 でございますな 」

「 うむ 其の杉江屋は旅籠も営んで居るのだが 其此に於夕(おゆう)と申

 す女御が御付きの者と部屋を取って居る故 右近組が此処を引き払ったな

 らば其の者らを此処に匿ってくれ 」

「 於夕殿 でございますな 」

「 うむ 頼んだぞ 」

  言いつつ 石段を登り終えた善行が 焼けて倒れた鳥居の残骸に腰を下

 ろした途端影が忍び寄り 御酒入りの瓢箪と干し肉を置いて消えた

⦅ 黒丸め 気を利かせ居って ⦆

  有り難しと 瓢箪の口に唇を当てごくりと喉を鳴らす

⦅ … 黒丸よ 遊佐様同様 汝(うぬ)らにも死なれては困るのだ …

   だが 巫女(ふじょ)組を人質として取られて居る以上下手は打てぬ

   かと言うて 今の俺では奴を殺れぬ … 

   考えろ善行 何か良い策が在る筈だ … ⦆

  御酒は程好く冷えて居て 山椒を利かせた干し肉との相性も良いのだが

⦅   にしてもあの男 女御は子を産む道具と抜かしやがった

   赦さねえ … 俺は絶対赦さねえ … ⦆

  干し肉をぎりりと噛み切り 御酒を一気に呷る

⦅   御前と妹の於ゆうが密かに通じて居たのを 此の俺が知らぬと思う

  てか 於ゆうが子を産めぬ女御であると知った御前は 無情にも於ゆう

  を捨てた 為に 為に於ゆうは ちっ 畜生めえいっ … 

   其して其の夜 母も消えた 気持ちは解らんでも無いが今でも何処ぞ

  で生きて居るのであろうか 

   生きて居るならば 一目なりとも会うてみたいが 其れは無理だな

   今の俺には 昔から其うだが あの男は殺れぬ 

   幾ら考えても 殺るには刺し違えるしか手は無さ其うだ … ⦆

  廃墟と化した亀山社から喘ぎ声が洩れて来る

  心で舌を鳴らし唾を吐くも 無視を決め込んだ善行は瓢箪の御酒を飲み

 干し 最後の干し肉を口に咥えたまま朽ちた柱にごろりと横に成る

⦅ … 四箇院を建てる際 鳥居は石であらねば成らぬと聞いた事が有る

 … やはり 銭が要るか …

 … 然し 美しいのう  …

   七月七日は於ゆうの命日故 其の夜は空など見上げる気さへ起きずに

  居たのだが 美しき物に罪は無い のう 於ゆう … … …


  … あの夜 …

  私(わたくし)は 何時もより早目に着いてあの御方を御待ち致して居り

 ました

  あの夜も 今宵の様に天の川が清らかに流れ まるで私達の向後を祝う

 てくれて居るが如く美しく煌めき満天の星の下 あの御方に抱かれると想

 うただけで私は正に天にも昇る心地で居たのでございます

  何時もより早く着きました訳は 久方ぶりに御会い出来る嬉しさと 蛍

 ならば風情もござりましょうが夏虫は煩わしいものでございます

  かと言うて あの廃寺迄蚊帳を持って行く訳にも参りませぬ故 虫除け

 の為でもございましたが場所が場所でございます 不浄を祓い心識(しんし

 き)を清らかにす可く事前に香を焚く積もりで早目に参って居たのでござい

 ます … とは申しましても 

  流れる汗も気にかかります故真に高価な物ではございましたが 母は既

 に亡くなって居りましたので用いる者は私しか居りませぬ故麝香を 耳の

 裏と脇の下に塗香(とこう)して出て参りました

  実を申しますれば 腿の内側にも少しだけ …

  ほんの少しだけでございます 塗って居りました …

  嗚呼 … 今思い出してみましても頬が赤らみまする …

  麝香の芳しい香りに自ら酔いしれ心は膨らみ胸の鼓動も高鳴る中 床が

 きしりと軋んだのでございます

  嗚呼 あの御方の左手が私の肩へ 其して胸元へ … … … …

  何故(なにゆえ)唇を求めて来ぬのでございます

  何故乳首へ触れては下さりませぬ

  私を焦らしておいでなのですね

  嗚呼 もう堪りませぬ源心様 … 

  源心様 … どっ 何処へ 何処へ行かれるのです源心様 …

  あの御方は一言も言葉を発せられぬまま 再びきしりと音を立てて去っ

 て行かれたのでございます

  私と 胸元に差し入れた御別れの文を残して …

  私は 幼い頃からあの御方の妻と成る事を望み只其れだけを願うて生き

 て参ったのでございます 其れなのに … 嗚呼 …

  其の時でございます 暗闇の中 嘆き悲しむ私の心を嘲笑うかの如く女

 御共の笑い声が近付いて来るではござりませぬか 途端 私の身体は無意

 識の内に其の声のする方へ向こうて居たのでございます

  声の主は私の父の妾と其の娘 高笑いして居る様も然る事乍ら 娘が待

 ち望んで居た稚児(ややこ)を漸く授かったと喜び合う二人の会話が 子を

 産めぬ身体の私の癇に障りましたは言う迄もござりますまい

  私は母娘の前に飛び出し様娘の腹を強く打ち 打った其の手で首を括っ

 て差し上げたのでございます

  娘の母は命惜しさに声を限りと何やら叫んで居りましたが 其の声が私

 の耳には何とも心地好くたっぷりと甚振(いたぶ)った後で 彼の世で閻魔

 様に余計な事を言わんでも良い様に 眼を潰して舌を抜き耳を削いでから

 逝かせて遣ったのでございます

  其の瞬間 足の爪先から頭の天辺迄 男の其れとは比べ物に成らぬ程の

 快感が一気に突き抜けて行くのを 今でも覚えて居りまする

  とは申せ あの妾を甚振って居ります内は真に愉しい一時(ひととき)で

 はございましたが 息が絶えてしもうてはもはや用済みでございます

  其此で 骸(むくろ)は切り刻んで豚の餌にしてやったのでございます

  ほほっ 豚は何でも食す生き物の上に人の骨すら跡形も無く噛み砕き呑

 み込んでくれます故 真に調法な生き物なのでございます

  調法次いでに申し上げますならば 其の革は使い道により固くも柔らか

 くも仕上げられ糞は肥料に 尿は火薬作りには欠かせぬ上に其の肉は力の

 源を為し 春の内に多く食して措きますれば今夏の様な酷暑にも堪えうる

 身体を内から造り上げる事が出来るのでございます

  其れより何より 豚の肝の臓を食さぬ事には夜目が利きませぬ 夜目の

 利かぬ伊賀の者など誰も雇うてなど下されは致しますまい

  長々と取り留めの無い話しをして参りましたが そろそろ行かねば成り

 ませぬ … おっ 其うじゃ善行 

  豚のお味は 其方の母を食した豚のお味は如何であった

  嘸や美味なるものであったろうのう …

  ほほほほっ ほほっ … ほおうっほっほっほっほっほっ … …


「 うっ ぐっ ぐうっ ぐうえっ ぶっ ぷっ はっはあっ はっ はっ

  はあぁ … … … 」

  飛び起き様 胃の腑の物を全て吐き出した善行の額から脂汗がじっとり

 と滲み出 激しい動悸に息も荒く手の甲で汗を拭いながら 目の前の荒屋

 を睨み付ける

⦅  くっ 何だ今のは … ⦆

「 如何為された善行殿 」

「 すっ 済まぬ 折角の持て成しを 」

「 いえ 悪い夢でも見てしまいましたか 

  随分と魘(うな)されて居りましたぞ 」

「 善行様 元々此処は霊の集う御山だ其うで 

  過去に手を掛けた者の霊でも現れましたか 」

「 名無し 戻って居たのか 」

「 はっ 」

「 手に掛けた者では無い 其うでは無いが … 

  名無し 倫組の頭領 今は何処に居るか判るか 」

「 はっ 張りの者によりますれば 弟組の若い者と赤浦へ向かったと 」

「 小頭は 二人の小頭は 」

「 はっ 赤浦の倫組の屋敷に居りまする 」

「 二人共 手の者を殺された恨みを忘れられるか 」

「 倫組と弟組に対し でござりまするか 」

「 其うだ 」

「 … 善行様が其う申されるのであれば … 御頭は 」

「 … 我らの大儀とあらば 」

「 二人共 良う言うてくれた 」

「 なれど善行様 御影が遊佐様を襲いし時は 」

「 言う迄も無い 其の時は全力で遊佐様を御守りしてくれ 」

「 はっ 御任せ下され 」

  頷く黒丸を見詰めつつ 懐から矢立と紙を取り出した善行は継ぐ可き言

 葉を認(したた)め 認めた文を苦無の持ち手の輪に結び様 荒屋目掛けて

 力任せに打ち込み

「 黒丸 名無し 俺が戻らぬ時は大儀も遊佐様の事も諦めよ

  あの男は 左近めは 巫女(ふじょ)組も始末する積もりだ

  故に 其の前に巫女組を連れて山を抜けよ

  其の折りは あの女御と於夕も頼む 」

「 善行殿 一体何を為さる積もりでござる 」

「 黒丸 此れは俺の仕事だ 尾(つ)いて来るな 」

「 … 真逆 赤浦へ 」

「 善行様 今宵の赤浦は何時にも増して厳しい張りとの事にござる

  御近付きは御止め下され 」

「 名無し 御前もだぞ 尾いて来るな 」

  言うなり 善行は 今一度荒屋を睨み付けて土に埋もれた石段を駆け下

 りて行き 透かさず後を追おうとした名無しへ

「 待て 今追おては如何に御前でも気付かれ様 」

「 しっ 然し御頭 」

「 行き先は倫組の組屋敷と判って居るのだ 間を措いて行こう 」

「 御頭 善行様は何を為される御積もりで 」

「 判らぬ 判らぬが 善行殿を死なす訳には行くまい 」

「 真逆 倫組の組屋敷に忍び入ると 」

「 忍び入るのは俺だけだ 御前は茂菜様へ継ぎを入れろ 」

「 … 茂菜様へ … 」

「 何だ 不満か 」

「 いっ いえ … 」

「 あの御方はそんじょそこらの男では満足せぬ御方だ

  久方振りに御前が行って抱いてやれ 」

「 おっ 御頭っ 御存知でしたか 」

「 当たり前だ 

  逝かせてくれぬ男の首を掻き切らぬとも限らぬでな

  たまには腰の立たぬ程慰めてやるが良い 」

「 はっ はあ

  にしても御頭 倫組と左右組 共に伊賀の者であるのに此の二組の間に

 一体何があったのでござろう 」

「 ふっ … 元凶は あの善(よ)がり声の主よ 」

「 あの女御が 」

「 ふっ 名無し 聞いて驚くな 

  あの女御 真は女御では無く男なのだ其うだ 」

「 … はあっ … おっ 男 まっ真逆 …

  一度 用を足して居る処を覗き見させて頂きましたが 竿も玉も付いて

 は居りませんでしたぞ 」

「 … 名無し 御前 」

「 おっ 御嬢は覗いては居りませぬ 」

「 真だな 」

「 はっ 此ればかりは嘘偽りはござらぬ 」

「 全く 御前の女陰(ほと)好きには呆れるわ 」

「 はは … 其れで あの女御の何処が男なので 」

「 己れで己れの物を羅刹 … 切り取った其うだ 」

「 なっ 何と勿体無い … 

  故に 右近を名乗らず亜由などと女御の名を 」

「 其の様だな 」

「 其れで 元は男のあの女御が一体何をしたのでござる 」

「 あの女御 倫組の頭領 服部源心の情夫(おとこ)だったのだが 女御に

 成った途端別れの文を渡された上源心が妻を娶ったのを恨み 倫組の留守

 を狙うて屋敷を襲った其うだ

  右近組の動きに気付いた右近の父は 直ぐ様左近組を率いて後を追うた

 のだが時既に遅く 留守居の者らは膾(なます)に斬られて皆殺しに遭い 

 源心の女房は右近組の者らに輪姦(まわ)された挙げ句 眼は潰されて舌も

 抜かれ耳を削がれた上 … 腹も裂かれて居った其うだ 」

「 … 子を … 宿して居りましたか 」

「 うむ まだ在る 

  あの善(よ)がり声 取り出した子の尻に小槍を突き刺し真っ赤に焼いた

 鉄鉢を頭に被せて脳を割り 其れでも飽きたらぬのか終いには臭水(くそう

 ず)をぶっ掛けて火を着け 庭に晒して高笑いをして居った其うだ 」

「 … 何とも 惨い仕打ちを … 」

「 其の時だ 間が良かったのか悪かったのか 高笑いをして居る最中に

 役目を終えた倫組が戻って来た其うだ 」

「 倫組の頭領の顔の傷は其の時の 」

「 うむ 善(よ)がり声を守る可く立ち塞がった右近の父を源心が斬り 其

 の源心の顔面を左近が斬り 左近の背中をあの御影が斬った其うだ 」

「 御影も其処に居りましたか 」

「 善行殿が申すには 倫組は前田に従い越前の府中に移ったばかり

  新屋敷へ招く可く誘ったのであろうと … 」

「 … 前田が府中に移りしは確か … 」

「 天正三年(1.575年)の事だ 奴の歳が気に掛かるのか 」

「 既に調べてござる 」

「 だと想うたは 御前程他人の歳を気に掛ける者は外に居らぬでな

  で 奴は幾つだ 」

「 永禄四年(1.561年) 三月の生まれ との事にござりますれば今年で

  … 二十二と成りまするが …

  左近は十五の若造に斬られた事に成りまするな しかも背中を 」

「 乱撃とは其う言うものであろう

  何時 何処から刃(やいば)が飛び出して来るか判らぬものよ …

  名無し 御主とて 散々験(けん)して居ろう 」

「 はっ 確かに 」

「 だが 相手はあの左近なのだ 

  乱撃の最中とは申せ あの男に一撃を加えるなど

  あの若造 やはり只者では無い 」

「 歳や経験に関わり無く 其の時勝った方が強い でございましたな 」

「 うむ 当たり前の事だがな 

  殺し合うのにたらればは無いのだ 其の時勝った方が生き残る

  其れだけの事よ 」

「 然し … 可笑しな事に成ってしまいましたな 」

「 全くだ 」

「 天目山で勝頼様らとはぐれた我らは 木賊(とくさ)村で織田勢に囲まれ

 もはや此れ迄と覚悟を決めた其の時 左近の使いで現れたのが善行殿でご

 ざいましたな 」

「 命を救うてやる故仲間に加われとは …

  武田の傍人(ぼう)組も随分と舐められたものよと 初手は斬る積もりで

 居たのだが 」

「 命を救うてくれると言うて居るのでござる 

  乗らぬ手はござるまい 」

「 なれど 既に勝頼様らが御自害為されて居られたとはのう … 」

「 言うてし申ては我らが後を追い兼ねぬと想うたのでござりましょう

  いや 我らと言うより 巫女組の身を案じたのやも知れませぬな 」

「 妹御の於ゆう殿とは真の兄妹なるも 未だ行方知れぬ母は育ての母と言

 うて居られた故 身の上は我らと同じ 」

「 はい … 戦で父も母も失い頼る縁者も居らず 其の日を生きる事さへ

 難い我らを今は亡き巫女組の頭領 望月千代女(ちよめ)様が母と成って育

 てて下されたのでござる 」

「 巫女(ふじょ)組を守る傍人(ぼう)人組としてな 」

「 其れも生きる為でござる 飯を喰わせて頂くには御役目を果たさねば成

 りませぬ故 」

「 代わりに 人を殺す技を身に付けねば成らぬがな 」

「 面陰で此れ迄生きて来れたではござりませぬか …

  御頭は後悔為されておいでで … 」

「 後悔 … 判らぬ …

  然れど 御前の言う通り生きて来れたのも又事実 …

  だが 其れで何が残った 

  我らの様な浮浪の子が増えただけではないか 」

「 … 善行殿も 同じ事を申されて居られましたな 」

「 うむ … 」

「 其して 会わされた御方が 」

「 遊佐秀光様 若いが学の有る御方よ …

  此度の院 集まり来る子らに人を殺す技など教えては成らぬ 代わりに

 学を教えて頂くのだ 其の為には … 」

「 遊佐様と其れを佐(すけ)る善行殿が居らねば成りませぬ 」

「 其う言う事だ … 

  一度救うて貰うた命だが

  我らは捨てる覚悟で臨まねば成らぬ 」

「 では御頭 そろそろ … 」

「 うむ 」

  応えるなり

  音も無く 土埃が舞った

                         つづく




 




 


 

   御影 弟組 MIKAGE OTOGUMI 其の十四

           誑 か し

           たぶらかし



「 戻ったぞ善行 何か判ったか 」

「 はっ 村島の手の者が多根道の崩れた岩肌に柵を据え続けて居りまする

 は一見 防柵の様にも見受けられますものの 真は … 」

「 … 桟(えつり)か 」

「 はっ 防柵など此の期に及んで必要無き物なれば 」

「 ふっ 考えたな狐蛇め 渡っては落とし道を下る積もりか …

  後は何処で奪うかだが … 善行 汝(うぬ)ならば何処で仕掛ける 」

「 はっ 奴ら 下り終えの多根村から二宮へ出二宮の船着き場から芹川

 長曽川 邑地の潟と川船で下り気多大社前の宮之浦で海船に乗り換えるも

 のと思われます故 どうせなら海船に積み込ませた処で … 」

「 うむ 俺も其うする 」

「 成れど御頭 下り終えは前田方も手薬煉(てぐすね)引いて待って居りま

 しょうに あの男如何にして抜ける積もりでしょうや 」

「 ふっ 其れは知らぬ だが 奴には抜ける策が有るので在ろうよ

  其処は奴を信じ任せて遣るさ 」

「 御頭らしゅうござる …

  御頭 奴が 御影が又候(またぞろ)出張って参ったと耳にしましたが

  やはり殺りますか 」

「 殺らんでどうする 行き掛けの駄賃と云うやつよ

  あの餓鬼 俺の邪魔ばかりしおっていっ 此度此其決着を付けてやる」

「 … 倫組は … 源心の兄貴は 如何為されます 」

「 元を正せば 奴と右近との間の事よ

  故に 倫組は右近組に当たらせる 右近も其の積もりで居る故な 」

「 … 囮にしますので 」

「 言わずもながよ あ奴の御陰で我らは伊賀を追われる身と成ったのだ

  其ればかりか … くっ 思い出しただけで背中の傷が痛むわっ 

  此れ迄 組の力が落ちては成らぬとあ奴らを生かして措いたが もはや

 容赦はせん 兄弟と謂えども此の責任はあ奴の命で償うて貰わねば成らぬ

 でな 手の者らも同罪よ 右近組丸ごと倫組にくれてやる

  ふっふっふっ 右近組だけでは倫組には勝てぬ 時を稼いでくれたなら

 ば其れで良い のう 」

「 はっ 」

「 処で善行 御前の人妻好きが此んな処で役に立つとはな 流石我が左近

 組の小頭 誑かしの善様とは良う言うたものよ 」

「 御頭 誉めて居られるのか貶(けな)して居られるのか何れでござる 」

「 誉めて居るのに決まっておろう 

  瓢箪から駒とは正に此の事 真逆御前が誑(たらし)込んだ女御が熊沢の

 女房であり あの狐蛇の妹であったとはのう … 」

「 はい 甲斐では好みの女御に巡り逢えぬまま越後へ戻った其れがし 久

 方の市井の香りに股間が疼いて堪らず 艶紅紅りに身を扮したまま春日山

 の城下を物色して居りましたならば 漸く其れがし好みの内儀が艶紅を唇

 に点(さ)しつつ物欲しげに色目を使うて来ました故 其れがしも然り気無

 く粉を掛けた処 … 」

「 股を拡げたか 」

「 はい 余程男に飢えて居った様で 哀れな程枯れて居りました故夫が留

 守な事に此れ幸いと其の夜から毎夜通い詰めた或る夜の筝でござる

  能登での戦が終わりますれば夫や兄に従い新発田へ行かねば成りませぬ

 故善様 せめて其れ迄の間だけでも私を御慰み下されませ

  と言うて来ました故 此れは何か在ると急ぎ御頭へ御報せした次第でご

 ざる 」

「 うむ 越後は蒲原郡 新発田城主新発田重家なる男

  上杉の御館(おたて)の乱の折りには景勝へ付いて居たが今では反景勝方

 の急先鋒なのだ

  御前の其の報せに直ぐ様新発田を探らせたならば 温井の村島が手土産

 持参で降ると言うではないか 奴らに手土産などあろう筈も無く再び御前

 の手練の出番と成ったな 」

「 はい 其の手土産 初手は温井の首かと想いましたが今更奴の首など何

 の価値もござりませぬので 其れが何で在るのかを口にした時には朝にな

 って居りましたは 」

「 ふっ 御前の物が絶えず上下の口を塞いで居たのであろうよ

  言いたくても言えぬ筈だ 」

「 はっはっはっ 御尤も 

  成れど其の内儀名を於夕と申しますが 真は熊沢と別れる積もりで居っ

 た其うにござる 」

「 兄の村島との仲を気づいて居ったのか 」

「 其の様で …

  兄の尻の穴を塞いだ物で己れの女陰(ほと)を突かれるなど想うただけで

 堪えられぬと 熊沢との交(まぐ)わいはずっと拒み続けて来たとの事なれ

 ば 哀れな程枯れて居たと言うのも納得でござる 」

「 内儀では無いが 女御の尻でさへ好かぬのに男の穴に一物を入れ合うな

 ど 想うただけで反吐が出るわっ 」

「 其れがしも女御の女陰(ほと)が一番でござる 」

「 御前の場合は但しが付くのであろう … 年増の人妻とな 」

「 はっはっはっ 確かに 年増も年増 大年増が好みでござる

  後腐れ無く別れられますので … 其の為には如何なる情を持っても掛

 けては成らぬのでござる 後に何かと面倒な事に成りかねませぬ故 」

「 全くよ 女御の情に絆(ほだ)される男の気が知れぬ

  女御など 子を産む道具に過ぎぬ生き物よ 道具に過ぎぬ生き物に情な

 ど 持つ事も掛ける事も出来ぬわっ 」

「 … … 真に … … 

  とは申せ 少々出遅れてしまいましたな 」

「 いや … 早過ぎた程だ … 

  狩られたのは今日で三人目 此れ以上失うては流石に黒丸も良い顔はせ

 ぬであろうしな 」

「 引き上げさせますか 」

「 うむ 俺の命ある迄御前山(おまえやま)に潜んで居れと伝えよ 」

「 はっ … 右近様へは 」

「 我らは明日にも此処を引き払う 故に右近組は我らと入れ換わり此の眉

 丈山(びじょうざん)へ移れと申し伝えよ 」

「 はっ で 我ら左近組は何れへ 」

「 石動山城だ 無論巫女(ふじょ)組も連れて行く 」

「 石動山城へ 此れは又何故でござる 」

「 般若員快存(はんにゃいんかいそん)からの申し出よ

  温井らに籠らせては成らぬとな 近付く者在らば … 」

「 斬っても良いと 」

「 うむ あの城は 七尾城攻めの戦況を把握す可く謙信が築いた城だ其う

 だが 物見櫓に過ぎぬ故守るには向かぬ城よ 

  だが 其の様な城でも侍とは何かと籠りたがる生き物であろう 」

「 確かに 」

「 衆徒らに取っては天平寺の寺院が正に一所懸命なのだ 故に 目障りな

 あの城は戦が始まったと同時に火を放ってくれとの事だ 」

「 背火(はいか)の陣 と成れば 温井らとて後へは退けませぬな 」

「 うむ 端から退けぬがな

  今日は七月の七日 開戦迄恐らく後二十日も在るまい … 

  のう善行 多根道は石動山城の真下を通る 故に其れ迄間諜狩りの振り

 をしつつ高見の見物と洒落込もうではないか 」

「 はっ … では其れがしは此れで 」

「 善行 」

「 其の於夕とか申す女御は 始末したのであろうな 」

「 はっ 熊沢の死の報せに後を追うた事に致しましたが 」

「 うむ 其れで良い

  何事も 後腐れの無い様にせねば成らぬでな … 」

                         つづく















  

      此れ迄の登場人物 順不動

 

  水神 流夷    御影畠山の初代 畠山義治

  水神 絹     流夷の妹 奥州の覇者藤原泰衡の側室 於結の母

  畠山 義続    能登畠山第七代当主  

  畠山 義綱    能登畠山第八代当主  義続の嫡男

  畠山 義慶    能登畠山第九代当主  義綱の嫡男

  畠山 義春    能登畠山第十代当主  義慶の嫡男

  畠山 春王丸   能登畠山第十一代当主 義春の嫡男

  御影畠山 蔵治  能登畠山第七代当主畠山義総の臣 尊治の祖父

  御影畠山 秋実  能登畠山第七代当主畠山義総の臣 蔵治の弟

  御影畠山 政治  能登畠山第八代当主畠山義続の臣 尊治の父

  御影畠山 宏実  能登畠山第九代当主畠山義綱の臣 御影兄組 頭領

           尊治の兄

  御影畠山 尊治  御影弟組 頭領

  原  広之進   御影弟組 一番組頭

  天野 勝明    御影弟組 二番組頭

  鹿島 傳助    御影弟組 三番組頭

  円山 香梅    御影弟組 遊撃組

  須藤 菊花    御影弟組 遊撃組

  金子 松之丞   御影弟組 一番組小頭

  手塚 龍蔵    御影弟組 一番組小頭

  阿部 万亀丸   御影弟組 一番組 探索方

  古藤 小虎    御影弟組 一番組 探索方 

  平  続重    畠山義続の臣 

  平  加世    続重の孫娘 天野勝明の妻

  阿部 尼和    万亀丸の妻 経貞の娘

  井口 経貞    浅井の旧臣 尼和の父

  作兵衞      平館の小者

  杉江 次郎兵衞  七尾杉江屋の主

  熊沢 鬼三郎   温井景隆の臣 物見番頭

  村島 竜三郎   温井景隆の臣 荒山砦の守将

  温井 景隆    能登畠山の旧臣

  三宅 長盛    能登畠山の旧臣 景隆の弟 

  左近       伊賀抜け左右(そう)組の頭領

  蓮次丸 (於蓮)  村島竜三郎の従卒

  遊佐 続光    能登畠山の旧臣 秀光の祖父

  遊佐 盛光    能登畠山の旧臣 秀光の父

  遊佐 秀光    遊佐家の当主

  遊佐 長員    秀光の叔父

  堺  十蔵    遊佐盛光の臣 徒組(かちぐみ)頭

  橋本 長兵衛   鷹匠 鷹絵師 別名牛欄 浅利政吉

  田中 清六    鷹商 鷹田屋の主

  田中 清太郎   清六の兄 国友村の加治屋田中屋の主

  蒲生 賢秀    織田家の臣

  蒲生 氏郷    賢秀の三男

  蒲生 重郷    賢秀の四男

  浅利 勝頼    奥州比内郡の領主 

  大木戸 忠彦   重忠の臣

  大木戸 秀彦   忠彦の長男

  大木戸 保彦   忠彦の次男

  大木戸 頼彦   忠彦の子孫

  大木戸 比呂彦  頼彦の長男

  畠山 重忠    鎌倉幕府の御家人

  畠山 重秀    重忠の長男 庶子

  畠山 重保    重忠の次男 嫡男 正室北条義子の子

     於結    於絹の娘 重保の妻

     重行    重保の長男

     時麿    重保の次男

  平沢 武秋    重忠の臣

  木村 剛夫    重忠の臣

  石田 為猛    武蔵の国 平子郡 石田家の当主

  石田 久猛    為猛の弟

  石田 時猛    為猛の嫡男

  雲林院 松軒   安土城留守居役 天真正伝香取神道流兵法者

  服部 源心    前田利家の直属の配下 伊賀倫組(みちぐみ)の頭領

  前田 安勝    前田家の将 前田利家の兄

  前田 利好    前田家の将 安勝の嫡男

  佐脇 家久    前田家の将 戦目付け

  岡島 某     前田家の臣

  横山 某     前田家の臣

  弥助       織田家の臣 モザンビーク出身の黒人

  足利 義純    重忠の未亡人 北条義子の再婚相手

  北条 時政    義子の父

  牧の方      時政の継室

  平賀 朝雅    牧の方の娘婿

  北条 義子    畠山重忠の未亡人

  稲毛 重成    北条義子の妹の夫

  大日出王     遥か昔 遥か西の彼方の地に君臨した王

  総門の王     大日出王の息子

  小川 欣祐    石動山天平寺阿弥陀院の院主 善の衆徒の長

  般若員 快存   石動山天平寺 悪の衆徒の首魁

  長  続連    能登畠山の旧臣 連龍の父

  長  綱連    能登畠山の旧臣 連龍の兄

  長  連龍    前田の臣 続連の子

  研ぎ師      源心の手の者 何者かに斬殺される

  真ん中の男    研ぎ師殺害の解死人(犯人)

  雑兵       壱 弐 参 四 荒山道で討ち死に

  郎党       壱 弐 参 羽咋郡小石川村で討ち死に

  衛士       壱 小丸山城外で非業の死

  

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